第8章 韓国芸能
67. 韓国俳優間の格差問題
 
 
 
 
以前にも書きましたが、韓国でトップスターの出演料が100倍に跳ね上がり、例えばキム・スヒョンのドラマ1話あたりの出演料が5億ウォン(5千万円)と推定されますが、反面に端役俳優は年収が最低賃金水準で有る1千万ウォン(100万円)に後退して居る事がニュースになって居ます。

 

<キム・スヒョンの新作>

 

この記事を参考に
韓国日報で『スター権力と韓流両極化。
韓流成果独り占めするスター、富益富貧益貧(貧富の差が日増しに増大して行く様)深化』と言う記事が有りました。
今回は韓国ドラマブームの裏側で起こって居る格差増大の問題点にスポットを当てたいと思います。

 

 

19年目の俳優Aさんの昨年の所得は3000万ウォン(300万円)台でした。
テレビドラマと映画、コマーシャル18編に出演してもらった収入です。
20年近く活動した俳優としては十分な収入とは言い難い収入です。
彼は「昨年の所得は広告出演料が60~70%程度で、広告モデルの出演がなかったら、演技活動だけで稼いだお金は1000万ウォン(100万円)前後だろう」と述べました。

 

<チョン・ジヒョン>

 

韓国では俳優が出演料をすべて手にするワケでは有りません。
出演料の20~30%をキャスティングディレクターやエージェンシーが手にし、所属会社が有る場合、その残りを会社と5対5で分けると言います。
 
その上、オーディションや撮影などに通う時にかかる各種費用や演技のレッスン費用など、彼ら俳優の負担としてのしかかって来ます。
ある程度顔が知られている助演級以上の俳優でなければ、出演料だけで生計を立てることは不可能で、端役など俳優10人のうち9人は副業やアルバイトをして何とか生計を維持すると言います。

 

近年、OTT(オンライン動画サービス)市場が大きくなり、ドラマの制作が大幅に増えて居ますが、大多数の俳優たちの出演所得はむしろ減る傾向にあるそうです。
 
ドラマ主演俳優の最高出演料が20年で100倍に増加して居る事と正反対の結果です。
2022年現在、端役級俳優の最低出演料は約50万ウォン(5万円)だそうで、いっそ他のアルバイトをした方が割が良さそうな、低い金額に留まって居ます。
KBSニュースなどでも放送して居ましたが、韓国放送演技者労働組合によると、昨年組合員5,411人の平均年間所得1,577万ウォン(157万円)で、とても俳優業だけで生計を維持する事は困難です。
ましてやドラマの出演料には宿泊費、食費、交通費がすべて含まれているので、地方撮影の場合、それらを抜いたら最低時給より少なくなると指摘されて居ます。

 

 

一方、以前にも記事で紹介した通り、主演級俳優たちの出演料は跳ね上がる一方です。
トップを走るキム・スヒョンの出演料が5億ウォン(5千万円)と報道されセンセーションを呼びましたが、その他イ・ビョンホンソン・ジュンギチョン・ジヒョンソン・ヘギョなど…トップスター1話あたりの出演料は2億~3億ウォン(2〜3千万円)水準だと言われて居ます。

 

 

以前、Netflix制作のドラマ『ミスターサンシャイン』の制作費用が430億ウォン(43億円)で有る事が多いに話題となりましたが、その他にも『イカゲーム』などOTT制作ドラマが増え、主演俳優たちの出演料の上昇はさらに増える見込みだと言います。
ドラマ制作が増えれば増える程、スター俳優の獲得競争が熾烈化する為です。

 

 

制作費用の多くがスター俳優の確保に使われる現在の傾向に韓国国内でも批判は多いですが、一度上がったトップスターたちの出演料は競争の論理が働く資本主義社会で中々落ちる事はあり得ず、主演級俳優たちの出演料とスタッフの人件費が上がり、制作費が大幅に増え、製作会社の収益性も悪化していると言います。

 

 

その一方で端役俳優たちは、韓国ドラマ市場の急成長の恩恵をほとんど受けられず、未放映分の出演料、シーン再撮影料、音声出演料、写真利用料など…ギャラをもらえない場合も少なくないので、このような不公正を正さなければ、韓国エンタメの更なる発展は無いと言えるでしょう。

 

<ジス>

 

思い返せば、ドラマ『王女ピョンガン〜月の浮かぶ川』でも、主演のジスが学校時代の暴力事件の発覚で途中降板する事態が有りました。
韓国国内で放送された部分も含め、それまで撮影を6割方終えて居ましたが、全て廃棄した上で新たにナ・イヌを迎え再撮影、ちなみに日本での放映時には初回からナ・イヌが登場する全くの新録が放送されました。
と言う事は、韓国で放送された回も全て再撮影された事を意味しますが、主演級俳優たちが再撮影の際にノーギャラを申し出た事がニュースになりました。

 

<元のポスター>

 

その際にも、この件が美談として語られたと同時に端役級俳優たちを案じる議論が巻き起こりました。
主役級俳優のその判断で、ただでさえギャラの少ない端役級俳優たちもそれに従わざるを得ず、益々彼らの環境悪化が懸念されたからです。

 

<ナ・イヌで再度撮影>

 

この様な貧富の格差韓国社会の縮図とも言えそうですが、如何に貧富の格差を是正して行くか、この大きな課題こそが韓国社会の成熟を占う上でも最大の課題で有る事を指摘しつつ、筆を置きたいと思います。

 

 

<参考文献>
한국일보  톱스타 출연료 100배 '껑충' 회당 최고 5억...단역은 최저임금 수준 뒷걸음질
연중라이브  챠트를 달리는 여자
 
韓国ドラマ #韓国時代劇ドラマ #韓国映画