第7章 韓国ドラマ映画 
166.王女の男
 
 
 
 
以前紹介しましたが、最近テレビ東京で目下放送中の史劇ドラマ『風と雲と雨』が楽しみになって居ます。

 

 

ドラマ『王女の男』で復讐に燃える主人公を演じ人気を博した往年のパク・シフが、同じく復讐に燃え「道師」となり、朝鮮王朝の未来を左右する「キングメーカー」として暗躍するストーリーで、父を殺された主人公が復讐を誓い変身して活躍する設定は「韓ドラアルアル」です(笑)。

 

 

しかし普段歴史上でも飛ばされる事の多い時代で有る近代前夜、すなわちチョルジョン哲宗期のストーリーで、勢道政治家のアンドン金氏(ドラマ上はチャンドン金氏)と国王チョルジョン哲宗、そして趙大妃チョデビの緊張関係が丁寧に描かれ、フンソン興宣テウォングン大院君コジョン高宗、そして若きミョンソンワンフ明成皇后などその後朝鮮王朝末期、我が国の近代史を揺るがす事になる中心人物たちの『前日談』が描かれるので、否応にも耳目が注がれざるを得ません。
 
詳しくはコチラを
このドラマのレビュー続きはドラマ完結後、再度書かせて頂くとして、今回は上記の主人公パク・シフの往年の大ヒット作『王女の男』について述べたいと思います。

 

 

このドラマ、歴史篇本編でも言及しました。
セジョン世宗の息子で病弱な第5代 ムンジョン文宗(문종)が若くして亡くなると幼いタンジョン端宗(단종)が1452年僅か11歳で第6代王として即位しました。
後ろ盾が少ない中、叔父のスヤンテグン首陽大君(수양대군)が権力を狙い、とうとう1年後にクーデターで実権を握りました。
これが俗に『ケユチョンナン癸酉靖難 』と呼ばれます。

 

 

スヤンテグン首陽大君は当時の実力者キム・ジョンソ金宗瑞を夜中に襲撃、暗殺してクーデターを敢行する訳ですが、その模様は映画『観相士』で眼にする事が出来ます。
 
ドラマはそのキム・ジョンソ金宗瑞の息子キム・スンユ(パク・シフ)セジョ世祖(スヤンテグン首陽大君)の娘であるリ・セフィ(ムン・チェリョン)が愛し合うと言うストーリーになって居ます。

 

 

まさに朝鮮王朝版「ロミオとジュリエット」で、荒唐無稽(こうとうむけい)に受け取られ易いかも知れませんが、全くのフィクションでは無く『クムゲピルダム錦溪筆談』と言う「野史」に登場する1編のお話しがモチーフになって居ます。

 

 

ここにその野史を紹介します。
 
世祖の長女セヒ姫は、世祖が甥を追い出して王位に就いた事について憤慨し父の憎しみを買いましたが、母の助けで宮殿の外に逃げる事になります。
セヒ姫は流浪しながら平民の様でも気品のある1人の木こりと会いますが、その男がまさにキム・ジョンソの孫でした。

 

 

2人は夫婦の縁を結んで炭を焼いて売って隠れて暮らしました。
ある時、彼らが住む所近くの温泉に世祖が療養に来るようになり、世祖は自分たちの孫たちに会うことになりました。
孫たちを通じて世祖は自分の娘がこの近くに住んでいることに気づきました。

 

 

罪悪感に苦しんでいた世祖はキム・ジョンソの孫を正式に婿として認め、二人を復権させようとします。
しかし、それより先に父王が来たということを知ったお姫様と夫は子供たちを連れて逃げ出し、とうとう消息がわからなくなったと言う話しです。

 

 

この本『クムゲピルダム錦溪筆談』のお話141編は朝鮮後期に多く出てくるようになった野談集とは異なり、他の文献を参考にせず、著者自身が直接聞いた話だけを収録したという点で、口碑文学と個人文学の橋渡し役の文学と評されて居ます。

 

 

ここで「野史」とは「正史」の対義語に当たり、“正史”に記録されていないか、“正史”とはされなかった民間で編纂された史書や、または伝聞の記録、民間に伝わる話、およびそれらに基づいて編纂された史書を指す言葉です。
必ずしも虚構は言えないとされて居ますが実証された史実とも言い難く、史実とフィクション(文学)の中間でファジーな存在と言えそうです。

 

 

この野史をモチーフにドラマは作られた訳ですが、ドラマではパク・シフ演じる所のキム・スンユはキム・ジョンソの孫では無く息子として居ます。
 
結論から述べますが、このドラマは2011年に作られた時代劇の中でも「記念作」で有るという評価を受けて居ます。
ストーリーも悪くなく、キャラクター描写がかなり優れているという評価です。

 

 

さらに、堂々とフュージョン(トレンディ)時代劇を標榜しているのに、いわゆる正統時代劇よりも実際の歴史上の人物の姿に忠実にキャラクターを描写した部分が高く評価されて居ます。
正統史劇よりも本作の世祖がより実際の歴史に近い冷酷で残酷な権力者として描かれ、名優キム・ヨンチョル演じるセジョ世祖の演技が絶賛されました。

 

 

当初、それら脇役に比べ若い主演への演技に批判も有りましたが、回を追う毎(ごと)にそれも収まり、パク・シフムン・チェウォンが主役級スターへと跳躍するキッカケになりました。

そしてこのドラマは韓国に於いて最高視聴率25.8%を記録し、近年稀に見る大ヒットドラマとなった事も歴史篇で述べました。

 
私としてはシリアスな復讐劇&ラブストーリーとして見応えは有りましたが、史実として「死六臣」事件にしてもスカッとした結末にはならないので最後の結末をどう処理するんだろうと訝(いぶか)しみましたが、案の定イマイチスッキリした結末では無かったので少々モヤモヤが残りました。

 

 

ここで史実を曲げてまでハッピーエンドにしてしまうのもどうか?とは思うので、それはそれで良かったのでしょう。
いずれにせよパク・シフの強烈な存在感が印象に残りました。
ムン・チェウォンも「風の絵師」の演技でメタぼれしてしまった女優さんなので、2人の「ロミオとジュリエット」劇が絵になって良かったです。

 

 

と、かれこれドラマ視聴後10年が過ぎて居ますが、パク・シフの姿が上記2作でダブる程インパクトが強いので、U-NEXTなど配信サービス(OTT)に接続可能な方は是非押さえて欲しい一作です。
 
以上、パク・シフ繋がりと言う事で、韓国でも評価が高いドラマを紹介させて頂きました。
 

 

<参考文献>
나무위키 
한국민족문화대사전  금계필담錦溪筆談
 
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