<リャンバン伝の仮面劇>
<朗読劇 リャンバン伝>
 
ワンポイントコラム
<韓国朝鮮 歴史のトリビア>
220.リャンバン両班伝
 
 
 
 
以前、パクチウォン朴趾遠『熱河日記』を紹介しましたが、今回はその書籍同様に有名な小説「リャンバン両班伝」を紹介します。
 
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『727.今も褪せぬ名紀行文?(『ヨルハイルギ熱河日記』)』ワンポイントコラム227.熱河日記ヨルハイルギパクチウォン朴趾遠について述べると同時に、彼の著書「熱河日記」を簡単に述べようとしましたが、長くなり過ぎる為、著…リンクameblo.jp

 

とても面白い小説なので、是非お読み下さい。

短編なので、私が書いた「超訳」の翻訳文を載せさせて頂きます♪
 
 
江原道の旌善郡のある村に、1人のリャンバン両班が住んで居ましたが、彼は真面目で文を読むのが好きでした。
なので、赴任する郡守は新たに来る度に、必ずその家に自ら進んで敬意を表しに行きました。
 
 
しかし、彼は生活が貧しくて、毎年、役所から還穀を借りて食べて居ました。
 
年が積もってみると、その数が千石にもなってしまい、観察使が見回って、官庁の米の出し入れを点検して驚き、そして怒りました。
 
「何処の何奴が兵糧米をこの様に虫食ったのか!」
 
役人は命令を下し、その両班を牢獄に入れました。
郡守は、その両班が貧しくて返済出来ない事を気の毒に思いましたが、仕方が有りません、
その両班は、昼と夜にと泣きましたが、どう仕様も有りません。
 
<演劇 リャンバン伝>
 
ある日、彼の妻がこう怒りました。
 
「貴方は一生文を読むのが好きだったけど、役所のお米の返済には何の助けにもならない。
両班だと偉そうにして見ても何の得にもなりません。」
 
同じ頃、その村のあるお金持ちが、家族と話し合いました。
両班は幾ら貧しくても、常に高く見られるのに、私たちは幾ら金持ちになっても、常に低く見られる。
馬に乗る事も叶わず、両班を見ればすぐさまヘイコラと跪(ひざまず)いて、地面に突っ伏してお辞儀をしないといけない。
丁度、あの両班が貧しくて、還穀を返済出来ず大変だと言うでは無いか。
これ、わしがその身分を買おう。」
 
 
お金持ちはすぐに両班の家を訪ねて行って、その還穀を代わりに返すと言うと、
両班は大喜びしながら承諾しました。
 
 
お金持ちは、すぐに両班が借りたお米を官衙に完済しました。
郡守は非常に驚きながらも不思議に思い、直接両班に所以を聞こうと訪ねて行きました。
すると両班はボンゴジ(平民の被る帽子)を被り、麻の服を着たまま道端に正座で座り込むと、「わたくしめは…」と称しながら、あえて見上げる事もせず、只々恐縮するのみでした。
 
郡守がビックリして、彼を支えて
「先生がどうして、ご自分を卑下されるのですか?」
と向けると両班は一層、頭(こうべ)を垂れ平伏するのでした。
 
 
「恐縮でございます。
わたくしめが敢えて意図的にこうするのでは有りません。
わたくしめは既に、自分の両班の身分を売って還穀を返済しましたので、村のお金持ちが両班になったのです。
わたくしめがどうして、厚かましく以前の様に両班の振りが出来ましょうや?」
 
< 旌善に有る銅像>
 
郡守が感心して言いました。
「彼は何とも君子らしい事か。
お金持ちながらも財を惜しまず、他人の苦労を世話するとは。
低い身分を嫌い、高い位を望むとはとても賢い。
これこそ真の両班で有るぞ。
キチンとせずに訴訟でも起こると大変です。
私が彼らと村の人々を集め、証人を立て証書を作成しましょう。
郡守で有る吾輩が、当然署名しなければ。」
 
郡守が直ぐに官衙に戻って、村中の士族と農民、工匠、商売人までみんな呼んで庭に集めました。
 
 
お金持ちを役所の右側に座らせ、両班を郷吏の後ろに立たせ、すぐに証書を作製しました。
 
「乾隆10年9月、以下の様に書き留める。
両班の身分を売って役所への穀物を完済する出来事が起きたが、その穀物は千石にもなる。
この両班の名前は多様で有る。
文章だけ読むと「ソンビ士」と言い、政治に携わると「大夫」と言い、善良な徳が有らば「君子」と言う。
武官は西におり、文官は東におり、これらをまとめて「両班」と言う。
 
<映画 リャンバン伝>
 
この複数の両班の中から、そなたが好きに選ぶ事として、今日からは今までしていた卑しい事とキレイさっぱり縁を切って、昔の人を見習って高尚にならなければならない。
 
朝3時になると必ず起きて、マッチを擦り灯りをつけ、精神込めて目で鼻先を眺めながら、両足を揃えてを尻を当てて座って 、賢人の様に難しい文を、氷の上に瓢(ひさご)を押す様に覚えなければならない。
ひもじい思いを耐え、寒さにも耐え、貧乏と言う言葉を口に出してはならない。
上下の歯を合わせ、強く音を立て、指で
後頭部をはじく事。
咳が出る時にも痰(たん)を呑み込んで、ちょんまげを結く時には、袖の裾ではたいて、塵(ちり)の波を起こす。
 
<演劇>
 
洗顔する時、拳の垢(あか)をこすらない様に気を付け、歯磨きを長くしてはならない。
長い声で「誰か〜」婢女(はしため:女中)を呼び、ゆっくり歩きながら踵(かかと)を引きずって歩かなければならない。
 
『古文真宝』『唐詩品彙』の様な本をゴマ粒の様に細かく筆写するが、1行に100字ずつ写さなければならない。
手にお金を持つ事はならず、コメの価格を聞いてもならない。
天気が暑くても足袋を脱いではならず、ご飯を食べる時にも笠を脱いでちょんまげのままで座ってはならない。
 
 
食事する時、スープを先に飲んでしまう事はならず、飲んでもすする音を出してはならない。
箸を下げながら食卓を突いて音を出してはならず、生のネギを噛んではならない。
マッコリを飲んだ後に、髭(ひげ)を舐めてはならず、タバコを吸う時にも頬(ほほ)が思いっきり凹む様に吸ってはならない。
 
幾ら腹を立てても、妻をぶってはならず、怒りが込み上げても器を蹴ってはならない。
素手で婦女子をぶってはならず、奴婢が間違っても打ち殺してはならない。
 
 
言う事聞かない馬や牛を責めても、売り主を懲らしめてはならない。
病気になってもシャーマン(巫女)を呼び込まず、祭祀をしながら奴婢に命じて他の神を招き入れてはならない。
寒くとも炉端に手を当ててはならず、喋る時に唾液が飛び散らない様にしなければならない。
牛を屠殺してはならず、お金の賭け事遊びもしてはならない。
 
 
これらの幾つかの行為のうち、お金持ちが一つでも違反した場合、両班はこの証書を持って役所に来て、訴えて正す事が出来る事を証明する。」
 
城主 チョンソン旌善郡守 花押
座首 別監 証署
 
 
証書を全て書くと、家来が印を受けて押しました。
厳かに打つその音は、まるで宮中で鳴らす準備の太鼓の様で有り、押された姿形はまるで北斗七星が縦に置かれた様に、オリオン座が横に置かれた様に見えました。
 
郡守が読み終えると、お金持ちがしばらくの間ボーッとした後、言いました。
両班がやっとこれ位だと言う訳ですか?
私は、両班は神仙と同じだと聞きましたが…。
本当にこれだけならば、あまりに不当にお米だけ奪われた事になりますだ。
どうか、もっと得になる様に直して下さいませ。」
 
 
なのでもう一度証書を作りました。
 
「天が民をお産みになった時に、その分類を4つに分けられた。
この四つの民の中で、最も尊い人がソンビ士であり、この士を両班と呼ぶ。
この世界で両班よりも大きな利益を得る者は無い。
彼らは農業をせず、商売もしない。
古(いにしえ)の字や歴史を大まかにさえ分かれば、科挙を受けられるが、大きく受かると文官になれ、小さく受かってもチンサ進士になれる。
 
 
文官のホンペ紅牌(合格の札)は2尺にもならないが、色んな品物がこれで賄えるので、これこそお金の成る木に違いない。
チンサ進士で、三十歳にして初めて任官をしたとしても、むしろ名の有る(科挙を経ない)『ウムグァン蔭官』になれるし、上手く行けば南の豊かな地域の大きな村を任され、耳もとには日傘の風が気持ち良くそよぎ、お腹は部下に指令する声で大きく膨れ上がる事であろう。
 
 
部屋では耳飾りでキーセン妓生たちをからかい、庭には穀物を溢れかえさせ、鶴を飼うであろう。
 
もし、そう出来ず貧窮なソンビ士として田舎にくすぶったとしても、武断で好き勝手な行動が可能であろう。
隣家の牛を引っ張り自己の田んぼを先に耕し、村の農民を捕まえて自己の畑を草刈りさせても、誰が吾を侮蔑しよう事か。
お前らの鼻に灰を吹っかけ、ちょんまげを掴み回し、髭(ひげ)を引っこ抜いても誰が吾を恨みさえ出来る物か。」
 
 
金持ちがその証書の作成を停止させ、舌を巻きながら言いました。
「やめて下さい。
どうぞおやめ下さい。
余りにも図々し過ぎます。
貴方たちは私を泥棒になれとおっしゃるのでしょうか?」
と言い、髪の毛を揺らしながら逃げました。
その後、死ぬまで「両班」と言う言葉を口に湛える事も無かったとの事です。
 
(おしまい)
 
 
どうでしょうか?
これ以上の皮肉とあて擦りが有るのかと言う程、辛辣です。
現代にも通じる風刺とブラックユーモアいっぱいの小説です。
 
<参考文献>
다빈치 지식놀이터
박지원의 '양반전' 전문
한국민족문화대백과사전
 
 
<マダン劇 リャンバン伝>