<ドラマ ポサム>

 
第8章 韓国芸能
7.韓国史劇ドラマの歴史
 
 
 
 
ドラマ映画レビューもおかげ様で100回を迎えました。
今回は100回記念として、韓国史劇ドラマの歴史を簡単に辿りたいと思います。
 
少々長くなりますが、お付き合い頂ける方、よろしくお願いします。
 
<ドラマ チュモン>
 
韓国史劇ドラマは主に
1.正統史劇〜大河ドラマ
2.フュージョン史劇
3.トレンディー史劇(ファンタジー史劇:仮想史劇を含む)に分類出来ます。
 
本格的な時代劇は、その時代の政治、経済、外交、軍事、文化…などの問題を適切に扱う傾向があり、その時代の政治論争や戦闘シーン、そして派閥闘争を正しく扱います。
 
   <ドラマ 月の浮かぶ川>
 
また正統史劇は、史料を参照して、実在の人物がそのまま出てくる傾向が多いです。
なので正統史劇では、善悪区別がほとんどない場合が多いです。
 
一方、フュージョン史劇は、正統史劇では扱えなかった新しい分野を扱う場合が多く、ロマンスが多く出て来ます。
また、その時代の政治家以外の職業や仮想人物が出る場合も多いです。
 
特に、史料を参照してない場合も多く、主人公が善役、相手が悪役で出て来る場合が多いです。
 

<ドラマ ホジュン>

 
これらのイメージを踏まえ、各時代の流れを簡単に辿りたいと思います。
 
まず、韓国の時代劇は、本来は正統史劇が主流でした。
軍事政権時代には、本格的な時代劇を通して「反共」理念を強く国民に広報する為の存在でした。
朴正煕政権発足後、テレビ放送が開始され、数少ないTV正統史劇が多くの人気を博しました。
 
『燕山君』『インモク太妃』『チャンフィビン』『光海君』など、本格的な時代劇ドラマが盛んに製作されました。
 
   <ドラマ 龍の涙>
 
1980年代の第5共和国、全斗煥時代には、初めて『KBS大河ドラマ』『MBC共和国シリーズ』、『朝鮮王朝500年』、『朝鮮総督府』などのシリーズ物が制作されました。
 
KBSの場合には『テミョン』『風雲』『開国』『独立門』の大河ドラマ初期4史劇が人気を集め、MBCは共和国シリーズの始まりで有る『第1共和国』を製作、その後、KBSは『夜明け』『土地』『歴史は流れる』などを製作、MBCは『朝鮮王朝500年』シリーズを制作しました。
 
6月人民抗争による民主化が始まった第6共和国、盧泰愚政府時代になり、徐々にフュージョン史劇が始まりましたが、主流は正統史劇でした。
この時期、傑作として名高い『黎明の眼(まなこ)여명의 눈동자』が放映され、今もドラマの画期と評価を受けて居ます。
『第2共和国』やKBS『王道ワンド』が放映され、フュージョン史劇が人気を集め始めました。
 
<不朽の名作 黎明の眼>
 
1990年代、金泳三政府時代には正統時代劇の全盛期で、『破天舞パチョンム』が爆発的人気を醸し、『三国記』『夜明け』『金九』『ハンミョンフェ』『チャンノクス』『チョグァンジョ趙光祖』などの正統史劇が人気を集めました。
 
一方、MBCは『第3共和国』『第4共和国』を放映しつつフュージョン史劇の制作に向かい、『東医宝鑑』が放映されました。
SBSも『モレシゲ砂時計』『チャンフィビン』を製作しています。
 
<ドラマ 王と妃>
 
第90年代後半になると、我々も馴染みの有る『龍の涙』『王と妃』が大きく流行りました。
SBSでも『林巨正』と『ホン・ギルドン』が放映され、人気を得ました。
 
2000年代、金大中政府時代にも時代劇の全盛期は続きます。
特にKBS大河ドラマで有る『太祖王建』が大きく成功し、史劇は最盛期を迎えました。
余談ですが、以前彼がホスト役を務めた『キムヨンチョルの街歩き』の番組で彼が街を歩くと、彼自身数多くの王様を演じて居るにも関わらず、「クンイェニム」と呼ばれる事が多かったです。
余程そのイメージが強いのでしょう。
 
<ドラマ 太祖王建>
 
KBSで『伝説の故郷』『小説 牧民心書』をはじめ、『明成皇后ミョンソンファンフ』が相次いで放映され大きなブームになり、一方のフュージョンに転換した MBCでは 『ホジュン』がドラマの金字塔を打ち立てました。
 
この頃からフュージョン史劇が徐々に主流になって行きます。
『商道サンド』『御史パクムンス』などが代表的です。
一方、正統史劇も、SBSの『女人天下ヨインチョナ』が現行政治批判を取り入れ大ヒットし、MBCの『第5共和国』『英雄時代』『洪国栄ホングギョン』『シンドン』、EBSの『明洞ミョンドン伯爵』KBSの『帝国の朝』『武人時代』『不滅のイスンシン』などが視聴率を集めました。
KBSでは『太陽人イジェマ』『チャン・ヒビン』も高い視聴率を集めて居ます。
 
<ドラマ 女人天下ヨインチョナ>
 
しかし、それ以降は本格的な時代劇が停滞する兆候が徐々に見え始めました。
 
盧武鉉政府が発足した2003年頃には、フュージョン時代劇が多く放映され、MBCの『チュモン朱蒙』、ペヨンジュンの『太王四神紀』、SBSの『大望』『チャングムの誓い』『張吉山チャンギルサン』『海神』など、今も韓国史劇ドラマ人気を支えるアイテムとして君臨するドラマが制作されて居ます。
 
   <ドラマ チャングム>
 
正統史劇の方ではSBS『ヨンゲソムン』 、KBS大河ドラマ『テジョヨン』が大きく成功し、『ソウル1945』で政治的論議を巻き起こしました。
SBSの『王と私』はSBSの最後の正統史劇と言われて居ます。
 
李明博政府発足後、本格的な時代劇は本格的な低迷期に陥り、フュージョン史劇『怪盗ホンギルドン』『イルチメ一枝梅』などが大流行しました。
 
KBSでは正統史劇を制作し続けましたが、『太王世宗』『千秋太后』以降、大河ドラマは大きく落ち込み、『近肖古王』『広開土太王』などが製作されますが、『チャンヨンシル』を最後に6年間中断して居ました。2021年『太宗イバンウォン』で復活し2023年『高麗契丹戦争』も好評を博すなど復活の兆しは見えて居ます。
 
<ドラマ ソンドク女王>
 
一方、SBSの『ソドンヨ薯童謠』とMBCの『イサン』が大きくヒットし、SBSは『チャミョンゴ自鳴鼓』『チェジュンウォン済衆院』、MBCは『ソンドク女王』『キムスロ』がヒットし、フュージョン史劇は市場を席巻して行きました。
 
以後、本格的な時代劇は大きく低迷期に陥り、2010年代にMBCの『トンイ』『ロードナンバーワン』、SBSの『ジャイアント』、KBS『チュノ』『巨商キム・マンドク』『名家』『イフェヨン』などの短編時代劇を放映し、機会を待ちました。
 
そしてこの時期、フュージョン史劇は全盛期を迎えます。
KBS『成均館スキャンダル』『王女の男』、SBS『ペク・ドンス』『根の深い木』、MBCの『チャクペ』『太陽を抱いた月』『ドクターJIN』『シンウィ』などが大きく人気を集めました。
 
   <ドラマ 太陽を抱いた月>
 
特に『太陽を抱いた月』はその後の史劇の生き残りの為の新たな方向性を示したと言う意味で大きな意義を持ちました。
 
朴槿恵政府に入り、大河ドラマは主に高齢者が見るドラマとなり、一方SBSの『チャン・オクチョン』『大風水』、KBSの『天命』『チョンウチ』『戦友』『カクシタル』、MBCの『光と影』『アラン使道伝』『馬医マウィ』『九家の書』『クアムホジュン』『帝王の娘スベクヒャン』、tvNの『イニョン王妃の男』などが放映され、フュージョン史劇が全盛期に突入します。
 
2012年〜2014年にJTBCの『インス太妃』、MBCの『武臣』、KBS大河ドラマ『チョンドジョン』などが放映され、視聴率回復により正統史劇の影響力が一時回復しましたが、製作費の高騰により大河ドラマは減って行きました。
 
   <ドラマ 星から来たあなた>
 
SBSの『星から来たあなた』『秘密の門』KBS『朝鮮ガンマン』『王の顔』、MBCの『夜警士日誌』、TV朝鮮の『炎の中に』、tvNの『三銃士』などのフュージョン時代劇が再びお茶の間を轟かせ、『イニョプの歩む道』『客主』2015年の『六龍が飛ぶ』『華政ファジョン』などが人気を博しました。
 
本格的な時代劇は、2017年に放映される予定だった『茶山丁若鏞』が制作中止に追い込まれ、『チャンヨンシル』以降大河ドラマが中断し、2021年年末の『太宗イバンウォン』での再開まで待たなければならなかった事は、先に述べた通りです。
 
一方ヒュージョン史劇は『オクニョ』『雲が描いた月明かり』『王は愛する』『猟奇的な彼女』『七日の王妃』など、変わらず勢力を伸ばして行きました。
 
<ドラマ 王は愛する>
 
俳優の分布も、長老俳優や中堅俳優は正統史劇に出演し、フュージョン時代劇はほぼ若い俳優たちが席巻する勢力図が出来上がりました。
 
2018年、本格的な時代劇とフュージョン史劇が結合した『不滅の恋人』の成功で、正統史劇の回復が成功する様に見えましたが、高い製作費と低迷する収益率のせいで、現在では本格的な正統時代劇を製作するのが容易ではない状況です。
 
   <ドラマ ミスターサンシャイン>
 
しかし、そのフュージョン史劇すら2018年以降、人気が翳り始めました。
この年は『ミスターサンシャイン』『100日の郎君様』を除き、時代劇が不振でした。
 
韓国でも、時代劇そのものが完全にクールダウンしてしまったのです。
 
その上、2018年から始まった地上波放送の失速は、時代劇放送の可能性をますます減少させたと言って過言では有りません。
映画では変わらず時代劇がかなりの数制作され、それなりに観客動員数を誇りましたが、ドラマでは低迷しました。
 
2019年に入ると『王になった男』『ヘチ』『イモン』『緑豆の花』『私の国』『アスダル年代記』『新米史官クヘリョン』『コッパダン』など多くの史劇が放映されましたが、以前の様な爆発的人気は見られませんでした。
 
   <ドラマ チョリン王后>
 
2020年以降は再び、史劇の放映本数が減りました。
『風と雲と雨』『チョリンワンフ哲仁王后』『アメンオサ暗行御史』などが放映され、2021年には『王女ピョンガン〜月の浮かぶ川』『朝鮮駆魔史』が制作されましたが、両作品とも歴史歪曲論議に包まれ、遂に『朝鮮駆魔史』がわずか2回で放映中止となった事は記憶に新しい事と思われます。
 
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それ以降、KBSでは『5月の青春』、MBCでは『ポサム~運命を盗む』が放映されて居ます。
満を持して大河ドラマが再開、『太宗イバンウォン』『高麗契丹戦争』がヒットしましたが、史劇ドラマの趨勢は今後どうなる事でしょうか?
 
最後に近年の特徴を述べます。
 
まず、放送回数ですが、正統史劇とフュージョン史劇を問わず、時代劇の放送回数を見ると、1990年代〜2000年代半ばには100部作を超える時代劇もかなり有り、中には200部作も出るなど時代劇の全盛期だったと言えます。
 
<ドラマ ポサム>
 
しかし、2000年代後半から時代劇が徐々に低迷期に入り、100部作を超える時代劇は出なくなりました。
それでも50部作を超える時代劇はかなり有り、2011年当時『広開土太王クァントテワン』などは100部作に延長する気配でした。
 
2013年までも、50部作を超える時代劇はかなり有りましたが、財政的な問題などによって2014年から放送局を問わず時代劇の放送回数が50部作を超えない作品が増えました。
2017年からは、50部作の時代劇はもはや放映されて居ません。
2018年からは史劇の没落と共に、25部作さえも超えず、ほとんど20部作内外に収まって居ます。
 
<ドラマ 王女の男>
 
もう1つの最近の特徴は、フュージョン時代劇は勿論、本格的な時代劇でもハッピーエンドが増えた事です。
以前には本格的な時代劇はサッドーエンドで終わる事が多かったですが、2000年代後半以降には、本格的な時代劇でもかなりハッピーエンドで終わる割合が増えて居ます。
 
最後の特徴は、2000年代中盤頃迄、劇を制作する上で、漢文の史料を扱うのが非常に困難でしたが、インターネットの発達により翻訳が簡単になり、既存の現代劇を制作して居た若い作家たちが時代劇市場に大挙流入し、トレンディなフュージョン史劇の市場が急成長する事になった事です。
 
<人気を得たハン尚宮サングン>
 
そして、それにより『チャングムの誓い』をはじめ、2009年の『ソンドク女王』、2012年の『太陽を抱いた月』など、歴史的事実ではなく、キャラクターベースのストーリーが登場し、歴史的史実は背景程度の位置に下がりました。
恋愛ドラマも増え、俳優も若い女性層に人気の有る、線が細く弱い俳優やアイドルが大挙投入される傾向になって居ます。
 
私も観て居て「これは服だけ変えた現代メロドラマで、時代劇では無いな〜」と思うドラマが多いです。
 
<魅力的なドラマ チュノの脇役キャラ>
 
 
その中でも『チュノ推奴』の様に、高い評価を受けたドラマや、『王女の男』の様に本格的な時代劇よりも歴史上の人物の描写が忠実であると言う評価を受けたドラマも有ります。
 
実際、日本でもそうですが、時代劇は若い世代が見るには古くさく感じられ、若い世代を取り込むには時代劇に於いてもトレンディ化ファンタジー化は避けられません。
 
韓国で、それでも史劇が生き残って居るのはトレンディな史劇ドラマが旺盛な事と無関係では無く、若い人たちがこの様なファンタジー史劇から歴史に興味を持ち、歴史と親しむキッカケになれば、それはそれで良いとも思います。
 
とは言えくれぐれも、歴史歪曲と考証無視、善悪の2分化など、韓国ドラマの抱える問題点に注意し、今後、史劇ドラマが活性化して行く事を、歴史・史劇ファンとして願わずには居られません。
 
 
<参考文献>
시대순으로 보면 더 재밌는 한국 사극 드라마 추천
역대 한국 사극 BEST
나무위키
 
 

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<来たるドラマ 太宗イバンウォン>