第7章 韓国ドラマ映画
93.スウィング キッズ 스윙그 키즈    2018
 
 
 
 
この監督は戦争映画とダンス映画、どちらを撮りたかったのだろう?
勿論両方だろうけど、どっちに比重を?
私が映画を観終えた後、真っ先に感じた点です。
 
 
今回は映画「スウィング キッズ」を紹介します。
この映画、韓国では2018年に、日本では2020年に公開されました。
 
私がこの映画を知ったのは雑誌Penの映画紹介欄でした。
2020年2月に雑誌Pen『平壌 ソウル』特集が有ったので迷う事無く、即購入しました。
 
<雑誌 Penの紙面>
 
この特集は良く有る「反共和国」的なアプローチでは無しに、ニュートラルな立場で南北、とりわけピョンヤンとソウルを比較して居て、純粋な文化比較(と民族の共通性)記事を載せて居て好感持てました。
 
普段日本で知られている事の少ない共和国事情や統計(あくまで韓国で出した統計ですが)も出して、客観的たろうと言う姿勢が見えて、とても良い企画でした。
 
 
その映画紹介欄に「ニュータイプの戦争映画」と紹介されて居たのです。
 
私はそもそも戦争映画は好きでは有りません。
ましてや朝鮮戦争を題材にして居ると     『容共』『反共』の色が極端に出るので、イデオロギー映画を観る如しで好みません。
それがたとえ反戦映画だとしても。
 
しかし、戦争映画でダンスとは?
と意外性が有り、楽しそうで観たいとは思いました。
 
<ポスター>
 
その後、映画の存在を忘れてしまっておりましたが、最近Netflixのラインナップに搭載されて居るのを知り、お盆休みの今、やっとの事視聴に至った訳です。
 
韓国では公開時に多くの話題を振り撒いた模様で、記事を沢山見つけられました。
今は探そうと思えば辞典や当時の雑誌を頼らずとも、色んな記事を探せるので、スマホのネットサーフィンは辞められません。
得られる情報量が天地の差です。
 
知ると、この映画、そもそも2015年に韓国でミュージカルとして創作されたストーリーを大幅にアレンジして制作されたとの事。
 
映画を知るにはミュージカルの内容をまず知る必要が有ります。
 
 
原作のミュージカルは題名を『ロ ギス』と言い、主人公の人名です。
 
映画理解の上でも必要なので、まずはミュージカルのあらすじを簡単に。
 
1952年韓国巨済島の捕虜収容所。
後述します、この捕虜収容所では北側兵士捕虜が15万人収容されて居ましたが、ジュネーブ条約により比較的行動が自由だったので、共和国(社会主義)支持者と、そこまで思想的に訓練されて居ない自由に憧れる捕虜とに分かれ、紛争が起こって居ました。
 
米軍収容所の所長は捕虜を自由主義に巻き込もうと、自由の象徴としてラップダンスやゲーム、ポップソングなどを流行らせようと画策します。
そして丁度、来たる赤十字社の収容所訪問の際に、収容所の宣伝用にラップダンスチームを結成し、披露しようとします。
 
<ミュージカル ポスター>
 
一方、収容所には性格の異なる兄弟、共和国の人民英雄で有る「ロ ギジン」と彼を兄に持つわんぱくな17歳の主人公「ロ ギス」が収容されており、ギスは自由に憧れて居ましたが、偶然ラップダンスを目にした事から夢中になり、5人のダンスメンバーに選ばれてしまいます。
 
それを知った親北捕虜勢力は、兄のギジンを人質に、ギスにラップダンスを踊りながら収容所所長を狙撃する任務を下します。
 
さて、ダンス披露の日が来ました。
ギスは覆面をしてダンスに出演する事にしますが、さあ、ギスとギジンの運命は?と言う風に進みます。
一応ネタバレはやめて置きます(笑)。
 
このミュージカルは好評を受け、2016年にも再演されました。
 
このミュージカルを基に映画が作られた訳ですが、そもそもこのミュージカルが作られたキッカケは1枚の写真でした。
 
この写真には、覆面をしてダンスを踊る共和国捕虜が映って居ます。
 
<写真>
 
この写真は、伝説的な従軍記者ヴェルナー・ビショップ(Werner Bischof、スイス1916〜1954)が巨済捕虜収容所で撮影した写真の1カットです。
 
ミュージカル原作の台本を書いたキムシン作家は、この一枚の写真を見て原案を作成したそうです。
 
映画の中でも出て来る自由の女神像が、写真でも大きく見えるほど強烈です。
仮面をかぶった捕虜たちは映画と異なりタップではなく、スクエアダンスを踊って居ますが、歴史的背景や事情を知らない人には風変わりに見えるでしょう。
 
 
時代的背景を知って見ると、切迫した状況で、仕方なくダンスを踊らなければならない切実さが伺え、胸が苦しくなる写真です。
この写真は、韓国内の多くの文学と芸術家たちに大きな影響を与えました。
 
たった1枚の写真から霊感を受けてミュージカル、そして映画が制作されたと言う訳です。
 
巨済島の大規模捕虜収容所の話しは詳しく習っておりませんが、断片的には知って居ました。
 
<巨済島の捕虜収容所>
 
共和国で、金正日の指示の元、朝鮮戦争の隠れた英雄、韓国内で働く諜報員を描いたスパイ映画『隠れた英雄たち』は20部の大作ですが、非常に巧く作られており、20年以上経った今も人気を博して居る事を、共和国映画の紹介で述べました。
 
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その中で、巨済島の大規模捕虜収容所での暴動とその鎮圧、敵味方同士の駆け引きがスリリングに描かれます。

 
<共和国映画 名も無き英雄たち>
 
まさしく、この捕虜の処理を巡り南北停戦協定交渉が難航したので有り、様々な事件が起こったのでした。
 
共和国への一括送還を主張し立ち上がった親共和国捕虜の大虐殺事件も起きて居ます。
 
映画を観るに於いて、映画内でも描かれますが、この様なデリケートな問題で、アメリカ軍の暗なる計略により悲劇が起きて居た事を念頭に置く必要が有ります。
 
 
ようやく辿り着きましたが、映画のあらすじを
 
1951年、朝鮮戦争下の最大規模の巨済捕虜収容所。
新しく赴任した所長(ロス・ケトル)は収容所の対外的なイメージアップのため、戦争捕虜たちによるダンスチーム結成プロジェクトを計画する。
 
北朝鮮兵士のロ・ギス(D.O トギョンス)は収容所で一番のトラブルメイカーだが、かつてブロードウェイのタップダンサーだった米軍下士官のジャクソン(ジャレッド・グライムス)のタップダンスに惹かれ、チームに参加する。
 
 
4か国語が話せる無認可の通訳士ヤン・パンネ(パク・ヘス)、生き別れた妻を捜すために有名になることを望むカン・ビョンサム(オ・ジョンセ)、ダンスの才能を持ちながら1分以上踊れない栄養失調の中国人兵士シャオパン(キム・ミノ)も参加。
かくして、年齢・国籍・イデオロギー・ダンスの能力までバラバラなタップダンスチーム「スウィング・キッズ」が誕生し、デビュー公演を行うことになる。
 
(引用 公式サイト)
 
 
映画は、原作のミュージカル「ロギス」と全く違う衝撃的な結末と、当時の実話だった事件のモチーフまで入り乱れ、全く別の話を見せてくれます。
 
当初、コメディー調で始まったので日本の「Shall we ダンス?」「フラガール」の様なホックリしたストーリーを期待しましたが、途中からガラッと変わり、幾つかの反転の後、アッと言う結末に終わりました。
 
 
ヒット作を量産して居るカン・ヒョンチョル監督の選択だそうですが、賛否両論で、余り評判はよろしく有りません。
そのせいか、1千万人映画にもなるのでは?との前評判も虚しく、153億ウォン(約13億7千万円)の制作費を掛けたこの映画は目標の半分にも満たない1,465,269人と惨敗を喫してしまいました。
 
確かにEXOトギョンス演じる主人公ギスを始め、アメリカでは有名なラップダンサーと言うジャレッド・グライムスなどの名演技はあれど、惜しいとしか言いようの無い作りになって居ます。
 
毎度お馴染みの韓国映画のパターン、お涙ちょうだい的、『新派』的な結末に持って行きたく無かったとの事ですが、他の結末でも良かったのでは?と思う作りなので、是非ご覧になってご判断下さい。
 
 
映画の背景の説明に追われて肝心な感想を書くスペースが足りませんが、感想は結末のネタバレを含んでしまうので、ここらで良い気もします。
 
監督のインタビューも読みましたが、細かいディテールにもこだわりが有り、なるほどと思いました。
 
Netflixで公開中ですし、DVDもレンタル中なので、その眼でご判断下さい。
 
 
<参考文献>
나무위키 
스윙키즈' 보고 궁금했을 5가지
100만 돌파 ‘스윙키즈’ 도경수…그는 원래 남달랐다
뮤지컬 로기수 줄거리  거제포로수용소
 
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