<オンダルを描いたドラマ イピョンガン>

 

<ドラマ 王女ピョンガン>

 

第6章 朝鮮の人物ー5 古代中世5
温達オンダル
 
 
 
 
今回は最近NHK–BSプレミアムで好評裡に放送した『王女ピョンガン』の基本モチーフとなった人物の紹介です。
 
高句麗の説話「パーボ(馬鹿の)オンダル温達とピョンガン平岡コンジュ王女」で有名なオンダル温達将軍について見ます。
 
オンダル温達将軍は三国時代、高句麗新羅との決戦「アダンソン阿旦城戦闘」に参戦、惜しくも戦死した高句麗の著名な将軍です。
 
<オンダルとピョンガン王女の童話>
 
伝わる説話を記します。
 
子供の頃家が大変貧しくて、盲目の母を養う為に市場に通い乞食をしました。
 
所が、貧乏で容姿が痩せて蒼白だったので滑稽に思う人々から「パーボ(馬鹿の)オンダル」と呼ばれました。
 
<オンダル題材の音楽劇>
 
一方、高句麗の王ピョンヤン平陽王には王女が居ましたが、泣き虫でいつも泣いて居ました。
泣く度に父王は「パーボオンダルに嫁に行かせるぞ」とからかって脅かしました。
 
いざ嫁入りの段になって貴族の家に輿入れが決まると王女は言いました。
「父上はいつも私にパーボオンダルに嫁がせるとおっしゃってらしたのに何故約束をお守りになろうとなさらないのですか?」
 
 

 

王女はそう怒ると荷物をまとめて実際に宮を出て行ってしまいました。

 

そしてオンダルの家を探し当てると2人に経緯を話しました。

最初は狐につままれた様だったオンダルも次第に受け入れ、2人は結ばれました。

 

王女が持参した宝石などを売り牛などを買い、オンダルは仕事を得て生活は上向いて行きました。

そしてオンダルは高句麗で毎年開催される狩猟大会に出るようになりました。

 
高句麗では毎年3月3日、君臣と5部の兵士などが楽浪の丘で狩りを行い、得た獲物を天神と山川の神に祭祀する国家的な大祭典がありました。
 
<オンダル>
 
オンダルはこの催しに姫が育てた馬に乗って参加し、優れた狩猟の腕前を発揮して王の興味を引きました。
 
その後、北周武帝軍のリョドン遼東地方への侵入時に高句麗軍の先鋒として敵軍を撃退する大きな手柄を立て、初めて国王の娘婿と言う地位を認められて「大兄」という官位を授かります。
 
オンダル温達はこうして徐々に高句麗の支配勢力内で頭角を現わすようになりました。
 
<オンダル祝祭のポスター>
 
590年ヤンヤン嬰陽王が即位すると、新羅に奪われた漢江流域奪還のための軍事の出征に志願して参戦しましたが、アダンソン阿旦城の戦いで矢に当たって戦死しました。
 
説話では柩(ひつぎ)が山城を離れようとせず動きませんでしたが、王女が側にやって来て「もう大丈夫です。お離れになって下さい」と呼び掛けるとやっと動いたと言います。
 
この様に「三国史記」に寄せられているオンダルの一代記は説話的な色彩を強く持って居ます。
 
しかし、壁画古墳を除き自身の史料がほとんど伝わらない6世紀段階の高句麗史を理解するのに重要な史料として、さまざまな角度からの研究・検討がなされて居ます。
 
 
オンダルの出自は高句麗の最高支配勢力に属しては居ないと思われ、王族との通婚による身分上昇と推測出来ます。
 
しかし、平安王の王女と結婚する事が出来、さらに国王の側近勢力として自己の地位を伸長させて行く事が出来たという事実は、高句麗の支配秩序に大きな変化が有った可能性も有り、オンダルも新進勢力のひとりだった可能性が有ります。
 
<オンダル夫婦の像>
 
またこの「オンダル説話」は単なる平民の身分から単に武力によってのみでのし上った、武力で名を馳せたオンダル将軍の物語とも言え、
日本で言う秀吉の「太閤記」の様に、珍しいケースの実在の人物を扱った歴史物語と理解する事も出来ます。
 
オンダル伝説江華​​島一帯中部地方で主に伝承され、特にタンヤン丹陽地方にはオンダル山城も存在します。
オンダルの墓と伝来されて居る石の山が高句麗式の積石塚(トルムジ墓)で有る事も確認され、目下研究中です。
 
 
また、説話と同じタイプの「追い出された娘と炭焼き青年にまつわる民話」は全国的に分布し、この説話も家父長中心の伝統的な道徳を批判し、自ら独自の進路を切り開いて行こうとする女性の主体意識を描いて居ると言えます。
 
「オンダル説話」は親子の葛藤を扱ったと言う意味で、史実と説話をもとに創作されたシェイクスピアの「リア王(King Lear)」のプロットと似ていますが、西欧にもこの様なタイプの説話が伝承されて居る事を見ると世界的に普遍的な説話とも言えるでしょう。
 
余談ですが、彼らを描いたドラマでは「イピョンガン」が有ります。
 
 
また、最近のドラマでは、この説話を基にしたドラマ『王女ピョンガン〜月が浮く川』が制作され、NHK–BSプレミアムでも好評裡に放送されました。
コチラはあくまでモチーフだけ借りた、全くの別物に仕上がって居るので、元の物語と比べて見るのも面白いと思います。
 
レビュー記事はコチラ

 

<王女ピョンガン>
 
ちなみに韓国では独身男性が裕福な女性との結婚を願う「オンダル シンドローム」と言う言葉も有る様で、日本で言う「逆タマ コンプレックス」と捉える事が出来ます。
 
オンダル説話はこの様に色々な角度から我が国の歴史、文化を考察する貴重な史料となっておりますので、私達も空想の翼を広げ、昔日のロマンに思いを馳せるのも一興と言えるのでは無いでしょうか?
 
<参考文献>
三国史記
한국민족문화대백과사전