6 朝鮮の人物-45  近世29
ソユグ徐有榘とチョンジョジ鼎俎志
 
 
 
 
KBSワールドのレギュラー番組「韓国人の食卓한국인의 밥상」はとても味の有る番組です。
 
タレント好感度ナンバーワンに選ばれて居るチェブルアム최불암さんをパーソナリティに、
我が国の歴史と文化的角度から食文化を探る、
韓国の人気長寿グルメバラエティです。
機会があれば是非ご覧いただきたいです。
 
 
私も毎週録画して楽しみにして居ますが、今週の番組で朝鮮王朝時代のカリスマ料理研究家とも言える実学者徐有榘ソユグと彼の貴重な図書「チョンジョジ鼎俎志」が紹介されました。
今回はそれについて見たいと思います。
 
実学についてはコチラを
まず彼の歴史的に貴重な著書「チョンジョジ鼎俎志」について述べます。
 
朝鮮王朝時代には男性の台所の出入りがタブーでした。
両班リャンバン自身が台所で調理すると言う事は想像も出来ない事だったと言えるでしょう。
 
<ソユグ>
 
朝鮮後期の実学者ソユグ(1764〜1845)そんな両班という体面と虚飾に捉われず直接調理しました。
 
彼が書いた膨大な分量の百科事典『林園経済志』の16個志の内、食品調理百科事典である『林園経済志 チョンジョジ(鼎俎志)』はその時代の1千500余種類の料理のレシピを集大成した伝統的な食べ物百科事典です。
 
「チョンジョジ(鼎俎志)」のチョン鼎とは釜(鍋)の事、ジョ俎とはマナ板の意味で、台所の1番大事なアイテムを名前にして居ます。
 
 
『餅』だけでも蒸し餅、果物餅、ムトク、ブルトク、アラブクミ、ウェラン餅など97種類です。
朝鮮で旅行や山歩き道に欠かせない携帯食「ミシカル(ミスッカル=ミスト粉)」はパリポンデギミシカルなど、その種類が16種類にもなります。
 
「マンドゥ饅頭(餃子)」はなんと28種類も有ります。
キムチ、キジ、ボラ、アヒル、羊、カニ、スズメ、ハスの実など様々な材料を活用し、様々な伝統料理の饗宴は食欲をそそります。
 
「豚を焼く時に冷水を横に置き、焼き上がりにすぐ水で10回繰り返し浸(つ)からせ、油醤油と調味料を塗り再度焼くと、非常に軟らかくて味が出る」などの「美食レシピ」もあちこちで目に触れる事が出来ます。
 
膨大な食べ物レシピの中にソユグの実学精神が溶け込んで居ます。
「人の味覚は時間と場所に応じて異なり、世の中には味の絶対的基準を立てる「易牙」の様な料理人は居ない。一律に味の基準を立てる事は出来ない。」
 
 
「我々の国の食べ物が中国と異なるだけでなく、中国のレシピがあるとしても田舎のレシピまで研究する事は出来無いので、私たちの風俗に合わせて調理すれば十分だ」と伝えて居ます。
 
特に当時の朝鮮料理の優秀性と問題点、中国を含む他の国の食文化の優秀性など多国籍的で開かれた視点から正確に見て居ます。
 
この本は朝鮮後期の食文化とグルメをまとめた本で有り、当時の文化を体系的・科学的にまとめた本として高く評価されて居ます。
 
今迄完訳本が無く、漢文を読める人以外読めませんでしたが、林園経済研究所の翻訳作業と(財)プンソク文化財団のサポートにより2020年9月遂に完訳本が出版されました。
 
 
本は全4巻で出版されて居ます。
 
かいつまんで目次を述べると
1食鑑撮要(食材料の要点整理)
2 炊溜之類(ご飯とお餅)
3 澱烏之類(お粥・水飴・飴)
4球麺之類(ミスッカル(ミスト粉)・麺・餃子)
5飲清之類(湯・醤・茶・清涼飲料・沸かした飲料)
6菓釘之類(フルーツ蜂蜜漬け・フルーツの砂糖漬け・ドライフルーツ・フルーツ焼き・法制フルーツ・油果)
7 咬茹之類(野菜料理)
8 割烹之類(肉を分けたり煮て調理した食品)
9 味料之類(塩・醤・豆柴・酢・油と駝酪・酵母と麦芽・調味料)
10 醞醅之類(酒)
11節食之類(季節別の食品)など7つの巻で構成されて居ます。
 
 
伝統食の食材や各種レシピ、お酒と季節料理の内容が盛り込まれて居ます。
 
ソユグは朝鮮後期に待敎・副題学・吏曹判書・右参賛を経て大提学に至りました。
祖父と父の家学を続け、特に農学で大きな業績を残しました。
35歳に淳昌郡守の時、農書を募集する正祖のリュンウム綸音に接して提案を出しました。
それは、道単位で農学者を1人ずつ置いてそれぞれの地方の農業技術を調査、研究して報告する様にし、それを朝廷で全国的な農書にまとめ、編纂しようという案でした。
 
この提案は実現されませんでしたが、正祖が農学を体系化させる重要な契機となりました。
 
正祖についてはコチラ

 

ソユグの農学は「林園經濟志」で集大成されますが、それ以前にも基礎的研究として、農業技術と農地経営を主に扱った「ヘンポジ杏浦志」、農業経営と流通経済の関連に焦点を当てた「金華耕讀記」、農業政策に関する「境界策」も出しました。

 
そして、国内農書や中国の農書など800種余りを参照して、晩年に「林園經濟志」を完成させました。
1834年に全羅道監査の時、丁度飢饉に会いましたが、農民の為、救荒植物サツマイモの普及に努め、各国の農書を参考に「チョンジョボ種藷譜」と言う書籍を著し普及させました。
 
我が国の甘薯(かんしょ)先生と言えそうです。
他にも色々な著書を著しました。
 
現在、ソユグの記した料理内容を復元する試みがなされて居ます。
上述の番組でも以前このブログにて紹介した朝鮮王朝時代の七輪「ポンゴジッコル」(= チョンリプトゥ戰笠套)を使った料理が紹介されて居ました。
 
 
記事はコチラ
今後更なる研究により朝鮮の食文化が、より豊かになる事が予想され楽しみです。
日本でも上記の図書を気軽に手に取れる日が来る事を祈りながら。
 
<参考文献>
한국민족문화대백과사전
한국농정 임원경제지 정조지 완역본 출간된다
경기일보  조선 후기 실학자가 집대성한 음식 레시피, 임원경제지 정조지