【電通過労死の刑事判決】なぜ罰金50万円になるの? | 弁護士高橋裕樹のニュースな法律問題ブログ

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昨日の10月6日

電通が東京地検により起訴され

東京簡裁で審理されていた労働基準法違反被告事件の判決が下されました。

 

内容は罰金50万円

 

毎日新聞の記事

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171006-00000045-mai-soci

 

この事件については、

ちょうど公判の日に東京地裁・簡裁に僕も行っていたことから

その日の様子を

以前、このブログに書かせていただきました

 

略式起訴(略式手続)を検事が請求したのに対して

裁判所が略式不相当・通常公判とすべき

との判断をしていたことから

やや特殊な事案でした

 

【ごったがえす裁判所 電通・東電】

(上記の点についてご説明させていただきました)

 

この件は判決の面でも

特徴的なものでしたので

その点も簡単に説明させていただきます。

 

まず、今回の起訴事実は

労働基準法違反

 

具体的には、労働時間の規定違反(長時間労働、労働基準法32条の違反、罰則は同法119条1号)です

 

 

 

電通は、労働時間について

1カ月当たり50時間とする労使協定(労働基準法36条、36協定と呼ばれる)をしていたようです

 

しかし、電通はこの36協定の内容を超えて労働させていた

ということで今回起訴されたのです

 

ところで

条文を読むと

法定刑は6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金

 

今回の判決は50万円

 

なぜ、法定刑の罰金の額を超えて刑が科されているのでしょうか

 

これは、起訴され、審理の対象とされる事件が

何個あるかという問題と関連します

 

1つの裁判で

2つ以上事件を同時に審理し判決する場合

2つの事件は「併合罪」

として処理されます

 

 

この併合罪の場合に

どういう法定刑の枠(下される可能性のある判決のレンジ)になるのか

簡単に説明いたします

(厳密にはもう少し細かい分け方があります)

 

まず死刑の場合

死刑を2回、ということはないので

死刑の場合は併合罪での加重はありません

 

また、無期懲役・無期禁固も

懲役の判決で、これ以上重くなることはないので

加重はありません

 

有期懲役の場合は

一番重い罪の長期を1.5倍にする

という処理をします

 

「10年以下の懲役」(窃盗や詐欺等)とされている犯罪を併合加重すると

懲役刑の短期は1か月なので

1月~15年(1.5倍処理)

となります

 

起訴された罪が3件でも4件でも

一番重い罪について1.5倍までしかできません

 

では罰金はどうなるのか

 

 

相変わらず法律はわかりづらいですね

 

要は、罰金の場合

2件なら2件それぞれの罰金を足す

3件なら3件それぞれの罰金を足す

 

ABCの3罪で起訴された場合

A罪が罰金100万円

B罪が罰金50万円

C罪が罰金30万円

罰金の上限は合計額の180万円になります

 

罰金は1万円以上なので

(1万円以下は科料と呼ばれます)

1~180万円が科してよい罰金のレンジということになります

 

今回は

高橋まつりさんを含めた合計4名に対する労働基準法違反の起訴内容だったようなので

罰金のレンジは

30万円×4人分=120万円

1万円~120万円

ということになります

 

検事の求刑は罰金50万円

判決も罰金50万円

 

通常は、検事の求刑の方が重くなるので

求刑通りとなる判決は

重い判決と評価できると思います。

 

とはいえ

電通にとって50万円という金額自体は

痛くもかゆくもない金額でしょう

 

ですので、

この金額ではなく

裁判官が社会的意義から略式起訴を認めなかったという経緯

しかも求刑通りの判決をしたこと

そして、長時間労働も一因となって一人の女性が自殺してしまったことなどを

電通には重く受け止めていただきたいと思います。

 

アトム市川船橋法律事務所弁護士法人

 

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