ある日私の診察室に、鼻のホクロを取りたいという30代の女性が、母親と一緒にやってきました。
直径4ミリくらいの盛り上がって目立つホクロが鼻根部(左右の目と目の間くらい)と右の鼻翼部(小鼻)にできていました。
「どのホクロを取りたいですか」
「鼻の二つのホクロです」
「そうですか。鼻のホクロは人相学的に結構深い意味があるのをご存知ですか」
すると母親が
「私は本当は取るのを反対しているんです。昔からホクロを取ると運勢が変わるというし」といいました。
「そうです。ただし、良いものは残すべきですし、良くないものはとった方が良いです」
「私のホクロはどういう意味があるんですか。私は二つとも好きではないので、ない方が良いのですが」
「小鼻のホクロは散財ホクロといって、お金が出て行くことが多くて、お金が貯まらないので、ない方が良いでしょう。鼻根部のホクロは責任ホクロと呼んでいるのですが、女性の場合、頼られる立場にいることを良しと思う人はあった方がよいでしょうが、平凡な主婦として夫に頼り、家庭を守るという生き方で良いという人にはない方が良いでしょうね」
「先生、実は最近この子の旦那さんはリストラにあって失業中なんですが、この子は仕事を続けた方が良いということですか」
「つまり、鼻根部のホクロは、頼られホクロなんです。そのような運勢が待っているわけなので、この人にはこのホクロが合った方が良いのではないですか。私は取らないほうが良いと思いますよ」
「私は取りたいんですけどね」
「あなたはいろんな意味で頼られる人なんですよ。だからそのホクロは残しておいた方が良いんです」
「母親としても残しておいてほしいです」
〇      〇
結局、この女性は小鼻のホクロは全切除して、鼻根部のホクロは三分の一に縮小することにしました。彼女は美容的に鼻根部のホクロが嫌いだということなので、目立たないホクロに替えることで我慢してもらうことにしまました。
「これなら目立たないから我慢できます」「この盛り上がったホクロはまた大きくなってきますから、五年か十年経った時点でまた取りたいという気持ちが出てきたら相談にいらしてください。
「ホクロの人相学」というものがあります。私は仕事上、そういうことも少しはかじっています。ですから取ってほしいと言われても、ただ「はいはい」といって受けるのではなく、病的な心配のないものであれば、「強運のホクロ」とか、女性にとっての「もてホクロ」などは残すように説得するのです。