「タクシーに乗るときは相手に先に乗ってもらう。そして目的地の手前で先に降りる。そしたら自分はタクシー代を払わんでええ」。

 JR大阪駅近くに円形型ビル「大阪マルビル」を完成させたのが1976年。ビルを管理する大阪マルビルの社長などを務めた吉本晴彦氏。「大日本どケチ教」を設立して教祖に就任した。私は悪のりしてバブル経済の入口にさしかかったころ「有効土地活用セミナー」と称して講演会を開催。2回、講師に招いた。真黒のどうみても中古外車のセダンを自ら運転して大坂から京都新聞ホールに現れた彼をたくさんの「信者」が待っていた。ケチとしぶちんは違う、サントリーの鳥井道夫氏、森下仁丹の森下泰氏とともに大阪の三ケチと呼ばれているんやなどと関西財界人と連なることで自らの地位を誇示して見せた。

 

▲大阪マルビル(サンケイ新聞)

 あるとき招かれてマルビルにある吉本氏の社長室を訪問した。中層階にある一室の屋根裏で狭い空間だった。「わしはこれで十分や」と眺望がいい部屋はテナントやホテルように振り向けた、と語った。本当は今太閤を実感するために一番いい部屋を社長室に使っていたという虫の勘が働いた。

 しかしバブル期の絵画、不動産投資に失敗し、会社は産業再生機構の支援が決定。その後、大和ハウス工業の子会社となった。

 吉本氏はすでに故人となったが、大和ハウスは13日、マルビルの建て替えを発表した。2030年に新高僧ビルが誕生するそうだ。建て替えの間、大阪万博用のバスプールとして貸し出すというから、ケチ哲学は生きている。吉本興業とは関係ないので念のため。