香港滞在中のSさんに初めて飲茶レストランに連れてもらった時、最初に習ったのがレンゲの使い方だった。

お椀にお茶をたっぷり入れてレンゲで5、6回くるくるかき回す。

「こんな作法があるとは知らなかった」と私が驚くとSさんは「いや作法ではなく茶碗とレンゲが汚いからお茶で洗うのです」ときっぱり。ナルホドナットク。

ホテルレストランなどへ行くと、そんなおまじないをしている人はみかけない。1日3食、香港の大衆レストランへ行く人はレンゲ洗浄作法が必要だろうが、われわれ観光客が訪れる星付きレストランクラスはまず公衆衛生作法を飛ばして手抜きしても大丈夫だろう。

レストランでは烏龍茶、ジャスミン茶、プーアール茶などはさまざまなお茶がサービスされる。Sさんいわく「日本人は烏龍茶、女性はジャスミン茶を注文しますが中国料理は油ものが多いのでプーアールをお薦めします。なぜなら油を分解するからです。中国人が1日3食食べても肥らないのは料理と一緒にプーアールを飲むからです」。

脂質分解作用について論理的説明がなかったのですぐにナットクしなかったものの、それ以来プーアールを常用している。

 上海へ査証あり渡航したとき、直属役員からお土産の注文を受けた。お茶である。聞いたことがない名前だったのでメモを持って百貨店地下のお茶屋へ行った。女性店員は不愛想だったがメモ通り商品を用意してくれた。ショーケースの上に透明のガラスコップの中に綺麗な花が咲いていたのが目に留まった。

 

「これが水中花か」と眺めていたら日本語ができる女性店員がきて「これはお茶です。花に見えるでしょう。花茶といって女性に人気があるのです」。と愛想よく説明してくれた。

 女性に人気と聞いてほっておく手はない。早速10個注文して箱にいれてもらった。

 帰国して役員にお土産を持って行ったとき、秘書たちを集めて耐熱ガラスコップに花茶を入れお湯を注いで花が開公開実験をした。すると瞬く間にコップの中のビー玉大の葉の塊が魔法がとけたように開いてピンク色の花が咲いた。

役員に冷たくあしらわれた。「先斗町のお茶屋で舞妓ちゃん集めて同じことをやって受けようと考えているやろ」。

 図星だった。