伊吹山の夏花 3合目編①(7月19日、伊吹山花紀行 2020)
「ユウスゲ」を中心にした、3合目植物の観察会です。
森 壽郎 先生に、植物たちを説明していただきました。
夕焼けに向かい咲く花、ユウスゲ
これがユウスゲ、夜に向かって咲く花です。
夕方4時頃から開きはじめ、夜の闇の中で咲き続け、朝日が訪れる頃に花の命を終えます。
伊吹山3合目で、ユウスゲの観察会がありました。
例年のイベントとして、大勢の方が3合目を訪れるものですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、一定数の参加者で行われました。
(山麓から、林道に車を乗り入れて、参加者は3合目に向かいました。通常は林道ゲートにはカギがかかっていて、一般の方は車を乗り入れる事が出来ません。
例外として、観光タクシーを呼べば、登山口から3合目まで運んでくれます。都タクシー・℡0749―62-3851/2合目まで運んでくれるタクシー会社・℡0749―62-0106)
ユウスゲとは、レモンイエローの花色が美しいユリ形の花。この花の特徴は、「夕暮れ頃から花を開いていく」ことです。夜の間中咲いていて、朝日が登る頃にその命を終えます。
15時間程の、はかない花の命です。
この伊吹山3合目でも、シカやイノシシなどによる食害を受けています。そこで、野球場2面分程の面積をネットで囲い、そこを中心に草刈りなどの保全作業を行っているのが、『上野区:ユウスゲと貴重植物を守り育てる会』の皆さんです。
昨年は秋から2度、観察会に参加させてもらいました。
・・・・・・・・・・
観察会で、花を説明される講師は、森 壽朗 先生です(地元の先生)。
先生の話を聞き、学ぶ事がまだ多い事を知ります。
15年程前の春、伊吹山3合目を散策していた時、森先生にお会いし、「午後からの観察会を手伝ってくれるか」と、声を掛けていただきました。
すぐ承諾。少しでもお役に立てる事を、とてもうれしく思いました。
ツアーのお客様に同行し、緊張しながら、観察会助手をしました。
それが、(案内側として)伊吹山観察会に関わった最初の体験です。
(私は、漢方薬・生薬の業界に33年おります。薬草の勉強のため伊吹山を訪れる様になって、20年が過ぎました)
この日も森先生は、薬草系の植物を紹介する時は、「この薬草の説明を、皆にしてくれ」と森先生に言われ、目立ち過ぎないよう気をつけながら、皆さんに説明させていただきました。
(一般参加なので、そうさせてもらっています)。
・・・・・・・・・・・・・・
ユウスゲ(夕菅/ユリ科)
午後3時頃から開き始め、翌早朝(6時)には花の命を終えます。はかない1日だけの命、夜を視る花です。
1株から花は複数、次々と開きますから、8月半ばまでは花を見る事が出来ます。
朝9時頃まで開いている花が少数あったり、曇りの日は昼近くまで開いていたりもします。
夕べに咲く花と言うと、何か寂しげな印象を受けますが、これも生きるための知恵。
夜活動する昆虫に、花粉を運んでもらう事を思った進化です。どんな生命も、したたかに生き延びる方法を探ります。
午後4時頃に3合目を訪れ、草原に30分程腰を下ろし、徐々に開くユウスゲを眺めているのは、ぜいたくな時間の過ごし方だと思います。
午後4時頃、開き始めたユウスゲの花
・・・・・・・・・・・・・・・
シモツケソウ(下野草/バラ科)
この時期から、咲き始める花です。
伊吹山の山頂が赤く彩られる、「8月のお花畑画像」を見る事がありますが、このシモツケソウが咲き広がった姿です。カエデを思わす、5つに裂けた葉が特徴です。
草丈が30~40cm程の、背の低い植物です。
ヨモギやイタドリなど他の「強く・長く」成長する植物に囲まれると、(太陽の光を得られず)死んでしまいます。
人の手助けがされる状態の場所で、この植物は命をつないで来ました。
(具体的には、地元の方によるヨモギ採りなどの薬草採取。採った薬草は大阪の業者に販売されました。薬草に用いられない植物は、刈った後に集め、山麓まで転がして運び、肥料や飼料にしていました)
・・・・・・・・・・・・・・・
山頂では、シモツケソウが年々減り、今や群落は「見られない」と言って良い状況になってしまいました。
山頂保護に関わる団体は(全部ではないでしょうが)、「人が手を入れず放置する事が、自然を守る事だ」の基本方針を変えていません。
最近は、増えすぎたシカの食害も、それに追い打ちをかけています。
ルリトラノオ(瑠璃虎の尾/オオバコ科)
世界中で、伊吹山域にしか見られない植物です(伊吹山頂部の草地に多い、他に3合目・伊吹山岐阜県側の揖斐川町で見られる)。
人との出会いは一期一会、その時だけの奇跡です。
花との出会いもまた同じ、ましてや、ルリトラノオは伊吹山域でしか見る事が出来ません。
宝くじのテレビCMではありませんが、「(見に)行かないという選択肢は、ないでしょう」と、植物好きの立場からは思います。
山頂で多く見られる「クガイソウ(九蓋草/オオバコ科、かってはゴマノハグサ科とされていました)」と花はそっくりですが、葉の着き方を見ると、簡単に区別する事が出来ます。
(ルリトラノオは対生、2枚プロペラの飛行機の頭部の様。 クガイソウは輪生、茎をとり巻く様に葉が着く。)
絶滅危惧Ⅱ種とされる個体数の少ない植物、総数3,000株しか存在していないとされます。
観賞用として、品種改良されたものもあるとされます(異なるという説もあります)。
テリハノイバラ(照葉野茨/バラ科)
6月21日入稿のブログ(2020年6月16日の伊吹山花紀行③)で、「ノイバラ(野茨)」の説明をしました。白い花びら、花の中央部は濃黄色、清楚なノバラの花。
画像は、親戚筋の植物・テリハノイバラ(照葉野茨)です。
葉に光沢があり、何より、ノイバラと比べて花が倍ほど大きいです(花の径3cm程)。
・・・・・・・・・・
ノバラは、ひとの心を惹きつける植物であり、有名な物語の重要アイテムになっています。
『いばら姫』の物語はヨーロッパの古い時代の民話、それをアレンジしたのが1959年のディズニー・アニメーション映画『眠れる森の美女(Sleeping Beauty)』です。
魔女・マレフィセントの呪い、紡ぎ車(つむぎぐるま)の錘(つむ)が王女・オーロラの指にささり、それがため100年の眠りに就きます。王女だけでなく、城内のすべての人が、魔法のため同じ100年の眠りに就きます。
ノイバラは、城を包む様に成長し、だれも近付く事が出来ない様にします。王女を助けようと侵入を試みた若者たちを、そのトゲで捉え殺してしまいます。
そして100年が過ぎたその時、呪いの解けた城を訪れた若者のキスにより王女は目覚め、ふたりはその場で結婚。幸せに暮らしたという物語。
シュロソウ(棕櫚草/ユリ科、メランチウム科)
目立たない茶色い花。しかし近寄れば、シベの、黄色い点・赤い点が、目に入り、印象が違ってきます。
独特の美しさを感じます。
根元に、シュロ(ヤシ科植物)の線維を思わせるものが着きます。なので、シュロソウと呼ばれます。
散策される方からは、「ランの花だよね」と尋ねられる事も多いです。
しかし分類上は、ユリ科(APG植物分類体系ではメランチウム科)です。
外見はランに似たというのは、皆が思う事なのでしょう。関東地方では昔この植物を、フジラン(富士蘭)と呼ぶ時代がありました。
毒性を持つ植物です。それを利用し、この植物の根茎を、汲み取り式のトイレ(便壺)に入れます。ウジなどの虫の発生を防ぎます。
クルマバナ(車花/シソ科)
円い花穂の部分を車輪に例えて、クルマバナと呼ばれています。
◆伊吹山へ行かれる際役立つ、知識ワンポイント
※山頂は、麓から8度程気温が低くなります。3合目も、吹く風が涼やかです。
※真夏も、雨天・荒天時は肌寒く感じる事があります(天候が急変する事があります)。
※登山道では、林下の道はほとんどありません。日差しが当たり続け、帽子は必需品です。水も多くお持ちください。
※今までいなかったヒルを、野生のシカが持ち込みました。いるかも知れませんから、塩を持っていると良いでしょう。
※登山道ルートにあるトイレは、登山口(鳥居前)、1合目、3合目、山頂です。
ドライブウエイ終点(9合目)にトイレがありますが、麓からの登山者のルートにはありません。
◆見られた花
アキノタムラソウ、イブキジャコウソウ、イブキボウフウ、ウツボグサ、エゾフウロ、オオバギボウシ、オカトラノオ、カワラナデシコ、キバナノカワラマツバ、キバナノレンリソウ、キンミズヒキ、クサフジ、クララ、クルマバナ、シモツケソウ、シュロソウ、スズサイコ、テリハノイバラ、ノアザミ、ノダケ(つぼみ)、ハクサンフウロ、マイサギソウ、ヤブジラミ、ユウスゲ(花盛期)、ルリトラノオ など