来月久しぶりに先斗町へ出かけることになり、座敷遊びの打ち合わせを芸妓としている。

 

昨夏の先斗町丹米。暑いので川床から避難して踊りと歌に興ずる。
曲は小唄「わしが在所~空が曇れば」

 

『 先日姉さんに、さつまさと夕暮のお三味線をお稽古して頂きました。20日から小唄のお稽古がありますので、お兄さんがお弾きになる曲で、習えそうなものがあれば、先生に教えて頂こうと思います。何をお弾きになりますか? 』

 

 こんな風情で芸妓(げいこ)から連絡が来る。ちなみに「 さつまさ 」「 夕暮 」というのは端唄の曲名。この二曲は私と同行の先輩が歌われるので、芸妓へ三味線を頼んでおいたのだ。

 お兄さんとは私のこと。花街では客を「 お兄さん 」と呼ぶ。

 

 「 何をお弾きになりますか? 」ときたか!ということは姉さんに弾いてもらうだけでなしに、私も一つ弾かねばなるまい。

 

 「 では小唄振りは夏らしく青柳の糸を頼みます。素の唄夕立や田ではどうだろう?舞妓さんも来るのなら、何か踊れるものをしてあげたいね。道成寺の”梅さん”にしようか?私が弾くから、唄ってもらえますか? 」

 

 呪文のように見えるかもしれない、意味はこうだ。

 「 小唄振り 」は小唄に振り付けた踊りのこと、「 青柳の糸 」は小唄の曲で、芝居の明治一代女をモチーフにした夏の曲だ。「 素の唄 」は踊りが付かない唄のこと、「 夕立や田をみめぐりて 」という唄い出しの小唄を略して”夕立や田”では?と、いう。

 「 舞妓 」はまだ芸妓への修行中なので踊れるものが限られる。小唄はまだ踊れないので、長唄「 京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ) 」に出てくる一節を踊ってもらおうかということだ。ちなみに「 梅さん 」は 唄い出しの「 梅と、さんさん桜は~ 」の略で、決して「 ど根性ガエル 」ではない。

 

 お座敷遊びというとテレビの影響か、料亭でのどんちゃん騒ぎがイメージされるようだが、決してそればかりではない。芸妓の三味線で唄う、こちらが弾いて芸妓が唄う、客同士で弾いて唄って、芸舞妓が踊る。

 そんなお互いの呼吸をはかる、楽しい時間なのだ。