夏の終りのハーモニー

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 今年の阿波踊りで休憩したときのこと、脇にいた副連長がそっと言った言葉が耳に残る。

 

「 最終日、踊りが終わったとたん涼しい風が吹くのよ 」

 

 事実、猛暑の徳島を後に帰ると東京は水底にいるような涼しさだった。

 頭と体はまだ民謡のビートに揺れるモードのままだが、夏を納めるためにも江戸モードへ切り替えよう。そう思いつつ、浅草都鳥へと出かけた。

 

 都鳥は東京に残る数少ない待合の一つ。待合について詳しくは五月の記事「三社祭へ思い切って出かけてみた」を参照されたい。

 

座敷が始まる合図となる「お座付」

 

 今回は気の置けない小唄仲間ばかりだから、座が最初から弾む。地方は 紫沙、立方は すず柳、ちづる。

 

小唄振り「惚れて通う」

 

 

 お座付が終わり料理が中程まで進んだら、こちらの出番である。今日の仲間は皆芸達者なので、端唄・俗曲・小唄・長唄何でもござれ。終いには三味線弾き唄いも飛び出す。

 

大先輩は譜本も見ずに唄われる


 だが今宵の白眉はなんといってもこの方だった。


右が、ゆうこ姉さん

 夜の八時過ぎ、さっと入ってきた芸者がいた。見ると、さらりとした気をまとっている。
 御年九十四歳のゆうこさんだ。 戦前から浅草に出ているという、生き字引のような方である。
 「もう三味線の手も忘れてしまって…」
などと仰るがどうして、どうして。気づくとセッションが始まっている。
 大先輩のYさんがお姉さんの糸に合わせ、端唄、俗曲を替歌交えどんどん唄っていく。唄っていく、唄っていく…。何十曲続いたやら、二人はきっと何十年も息を合わせて歌ってきたのだろう。

 「しさしぶりに こんなにたくさん しいてうれしいわぁ」

 おねえさんがきれいな江戸言葉でうれしそうにつぶやく。弾いてを「しいて」と発音する姉さんの言葉を聞きながら、「ひ」と「し」が 「し」 っくりかえっていた祖母の語り口を思い出した。


ゆうこ姉さんと。

 宴が終わり階下のバー「千」で、燗酒に代えラム酒を飲んでいると隣がカラオケを歌い出した。

今日のささやきと
昨日の争う声が
二人だけの恋のハーモニー

 ああ、玉置浩二と井上陽水の夏の終りのハーモニーだ。

真夏の夢 あこがれを
いつまでも ずっと忘れずに

 九十歳と九十四歳のハーモニーは心が震えるほどすてきだった。
 私もきっと四十年後にああなってみせる。