京都の花街にはお茶屋というものがある。茶葉を売ったり、コーヒー・紅茶を出すわけではない。

茶屋とは芸妓を呼んで客が飲食したり、遊ぶ場所である。料亭もやはり座敷遊びに使われるが、料理を出す店「料亭」に対して酒などドリンクを出す「茶屋」、という位置づけだ。因みに茶屋では料理を作らず、仕出しをとる。
 
今回は鴨川をどりの見物のあと、お茶屋の「丹米」さんに伺った。丹米は昭和三年生まれのお母さん(茶屋の女将をそう呼ぶ)が娘さんと元気に切り盛りする店だ。
座敷遊びというとテレビ等の影響で、馬鹿騒ぎをするようなところと勘違いされているようだ。ひどいときは体を売る色街と混同されるが、こちらは芸を売る「花街(かがい・はなまち)」だ。
今回は大先輩Hさんと伺い、料理を頂きながらお母さん、若女将に芸妓を交えてひとしきり話に花が咲いた。Hさんは高名な綴れ織り師、話題は着物の柄に始まり、椀や鉢の模様、果ては芝居の緞帳と続いていく。
仕出しはたん熊北店、丹米のすぐそばだ。花街の仕出し屋は料理が冷めぬよう一品ずつ運ぶため、茶屋のすぐそばにある。
 
話に飽きてくると今度は唄に三味線、踊りの出番だ。今宵は少人数。舞妓の踊りなどの「お座付き」はせずこちら客二人が芸を披露する。
私が最も楽しいのがこの少人数の座敷遊びだ。互いに唄ったり、三味線をいじったり。弾き損ねがあっても、そこはご愛嬌。今夜来てもらった芸妓の久加代さんは一人で唄、三味線、踊りをいずれもこなす。Hさんが唄い、私が弾き、久加代さんが踊る。唄い手がお母さんに入れ替わり、次は私が唄い、久加代さんが弾く。
唄うものは長唄、小唄、端唄、さのさ、都々逸と様々な邦楽のジャンルだ。現代音楽で言えばポップス、ロックに始まりジャズやゴスペル、オペラまでというに近いだろうか?
 
端から見たらしめやかかもしれないが、乱痴気騒ぎなんて比較にならない。客を楽しませるために磨いてきた芸に、こちらもまた日々稽古した唄や三味線を投げかける、その掛け合いの呼吸がたまらない。
 
この間合いのやりとりの楽しさを、私は伝えていきたい。
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左から丹米のお母さん、若女将、大先輩Hさん、芸妓の久加代さん。