友人の吉田知史君が立志式をおこなうという。

 

吉田パンの看板

 

 吉田君は知る人ぞ知る行列のできるコッペパン屋、吉田パンの社長だ。私は給食のパサパサしたイメージがありコッペパンによい印象を持っていなかったのだが、亀有の本社を訪れ一口食べて驚いた。「まるでちがう」のだ。

 私の住まう大田区と亀有のある葛飾区は23区の端同士、片道一時間半ほどかかるが、それ以来やみつきとなり三月に一度ほど通っている。

 

 立志式は青山の銕仙会という能舞台で開かれた。黒紋付に仙台平の袴で現れた吉田君の語る人生は、凡々たる私には思いもつかないようなダイナミックなものである。

 体も壊し夢も失いかけたときに出会った盛岡の福田パンというコッペパンを食べたとき、「あっ」と魂に触れるなにかがあったという。そこまで話が進んだとき、私も「あっ」と感じた。吉田君のコッペパンを初めて食べたとき「あっ」と感じたのだ。

 

 「あっ」と思って、コッペパンを食べるだけだった私と違い、吉田君は魂を震わすコッペパンを作りたいと一念発起した。福田パンで修行し、念願のコッペパン専門店吉田パンを立ち上げてからの彼の活躍はここで書くまでもない。現在では大手が虎視眈々と狙う商材へとコッペパンを昇格させたのだ。

 

 吉田君は言う。人はおいしいものを食べているときには、決して争わないのだそうだ。

 

 「コッペパンで世の中を幸せにします」

 

 気負わないけれど、魂の底から絞り出したような彼の声は能舞台に響いた。

 志をたてられるとは、かくも幸せなことなのだ。

 私もかくありたい。