毎年4月にウイーンで行われるシンポジウムは、世界的なエンジン技術動向を知る上で貴重です。
今年は、コロナパンデミックの影響で本来のシンポジウムでなくバーチャルで行われたようです。
筆者が興味を持ったのが、表記のdDSFです。
これは、Diesel Dynamic Skip Fireの頭文字をとった商標です。
名前からだけではわかりにくいのですが、簡単に言えば、複数のシリンダーをもつエンジンで負荷に応じて実際に働くシリンダー数を変化させる技術です。
自動車工学に馴染みが無い人にはわかりにくいかもしれませんが、乗用車用エンジンは走行中ほとんどの時間、負荷25%以下で運転されています。
簡単に言えば、4シリンダーエンジンなら1シリンダーで済んでしまう理屈です。
1シリンダーで十分なのに4シリンダー働かせると効率が落ちますが、全力加速や全力登坂のような時には4シリンダーが必要です。
ならば、必要に応じて働くシリンダー数を制御できれば良いことになります。
アイデアはシンプルですが実現するには多くの困難が伴います。
筆者も、40年前にこのコンセプトのトラック用ディーゼルエンジンを搭載したプロト車の試験を担当したことがあります。
当時の技術では設計者の思惑どおりには上手くバルブを休止できず、結局製品化できずに終わりました。
さすがに時が経過し今やバルブリフトやタイミングコントロール技術は成熟しましたが、シリンダーを完全休止する製品となると、最近の例ではGMのフルサイズピックアップトラック用のV8ガソリンエンジンが目につくくらいです。
この技術を適用するには、今や大排気量信仰の最後の砦ともいえるV8エンジンは最も適しています。
そもそも、1シリンダーでも済んでしまいそうな時にも8シリンダーも働かせているからです。
これに対して、表題の技術は、TulaとCumminsの開発で、大型トラック用ディーゼルエンジンであるX15という15Lエンジンに適用しています。
そもそも、フルサイズピックアップ用エンジンと違い、トラック用ディーゼルエンジンでは負荷率が比較的高いので、この技術の省燃費効果もその分小さいはずで、これまであまり注目されてこなかったのですが、今回の発表によれば、NOxの低減効果が大きくて44%~50%、省燃費効果が1.5%~4%とうたわれています。
現在のディーゼルエンジンの排出ガス低減対策は、大きく2つあって、PM低減のためのDPFとNOx低減のためのSCRです。
SCRは尿素水を排気管に噴射してNOxを還元し排気ガスを清浄化するのですが、排気ガスの温度が低いと上手く働きません。
ディーゼルエンジンにはガソリンエンジンにあるスロットル(空気絞り弁)が原理的に不要で、低負荷で特に燃費が良いのですが、それゆえに空気過剰で排気ガス温度が低くなり、低負荷でのSCRの還元率が落ちてしまいます。
しかたなく、本来不要なスロットルを付けて吸入空気量を減らしたり、無理に燃料噴射タイミングを遅らせて本来良いはずの燃費を犠牲にして、NOx排出量を減らしたりといった制御をせざるをえません。
これに対して、働かせるシリンダー数を減らせれば、おなじ低負荷走行条件でも、エンジンの負荷率が上がるので、こんな制御はせずに、燃費とNOx排出低減を両立できます。
副次的ではありますが、DPFを再生するためにも、排気温度は高い方がよいはずで、うたわれてはいませんが、DPF再生時の燃費悪化を軽減しそうです。
今後、振動と騒音のレベルを下げるための更なる開発が必要でしょうが、基本的なハードウエアーはすでに大方開発済と考えてよさそうで、商品化へのハードルは効果に見合うコストアップをいかに抑え込めるかでしょう。
この技術、米国発で国内での動きは知り得ませんが、昨年Cumminsと技術提携したISUZUが“可変気筒エンジン”として売り出しても不思議ではありません。