ホモ・サピエンスが、地球上で頂点に立つ種になったのは、予測する術を獲得してきたからとも言えると思います。狩猟に必要な獲物の動き、農耕に必要な明日の天候、膨大な記録を基に明日の日食を知ること等、全て予測する術と言えます。
今、人類が挑戦している自動運転技術の肝も、やはり“予測”なのではないかと思います。
前方の人影を見て、直前に飛び出すのではないかとブレーキペダルに足をのせたり、前走車の動きから道を探しているのかも知れないと車間距離を余計に取るのも、多くの運転経験を基に予測しているからこそ出来ます。
安全だけでなく、効率向上に予測が役立つのも、また確かです。クルマの運転で効率と言えば、時間と燃料の節約です。私もかつて開発の現場で、高速道路走行での前方勾配予測に基づく効率向上に取り組んだことがありますが、今では多くの大型カーゴトラックに、この予測技術が投入されていて、運行時間を変えずに数パーセントの燃料を節約できるオートクルーズ機能として商品化されています。
この技術は、予め計測されている精密な道路勾配データに、GPS情報を基に特定した現在位置を対応させることで可能になりましたが、例えば前方の交差点の信号の赤青や、信号待ち車列の長さといった情報は、勾配のような固定した情報ではなく、リアルタイムの生きた情報です。このような情報を取得する術は、一般道路での予測運転を可能にするために必要で、V2I(路車間通信)、V2V(車車間通信)として、実用化に向け開発されている最中です。
この技術が確立されると、ゴーストップのある一般道路でも、余計な時間を掛けずに燃料を節約することができます。実際の実路走行データを基に、私自身が大型カーゴトラックを例にシミュレーションした結果からは、運行時間が変わらずに17%の燃料節約ができました。最近、メガサプライヤーの一つであるDelphi(デルファイ)が、米国のテスコース内に設置した市街地コースに、9人のプレス記者を招待し、このような予測を可能にしたシステムによる運転と、普通の運転による所要時間と燃費を比較したら、時間が4%余計にかかったが16%燃料節約できたと報告しています。
人間の予測は、経験の積み重ねに、離れたところを識る知覚が加わることでレベルが上がりますが、自動運転に使われるAIでも同じです。大きな違いは、人間にとっては経験を共有することがひどく難しいのに対して、AIにとっては極めて簡単なことです。AIが行う予測のレベルは、人類の過去の学習スピードを遥かに超えるスピードで、進化しているはずです。