妻が私の単身赴任先に来てから2週間が経った、9月の下旬の金曜の夜。なんとか仕事を片付けて、妻と子供達が待つ自宅へ帰省する為に新幹線に飛び乗った。この日迄に、近所の商店街にある、お菓子屋さんで袋一杯に甘いものを買っておいた。自宅で待つ妻と子供達へのお土産。新幹線の駅でお土産を買っても良いのだが、高いし、量は少ない。新幹線では袋一杯の菓子が邪魔ではあるが、みんな喜んでくれるだろう。

しかも、妻と子供達にはサプライズで、今日、私が帰省する事は内緒にしておいた。みんな、きっとびっくりしてくれるだろう。移動中の新幹線は退屈だが、週末に家族と過ごせると思うとその退屈でも、苦ではなかった。家族と会うのが楽しみだ。

家族の待つ自宅の最寄り駅に着き、タクシーで自宅に向かう。帰宅したのは20時。妻も子供達も帰宅しているようだ。

「ただいまー!」

突然、帰って来た私の姿をみて、台所で夕食の支度をしていた妻と娘がびっくりしている。
 
「おかえり!びっくりした!明日帰ってくるんじゃなかったの?」

妻は風呂上がりだったのか、濡れた髪を束ね、料理をしていた。

「いや〜、みんなをびっくりさせてやろうと思ってね!ただいま!」

私は妻をハグしようとした。しかし、その瞬間、私の視野に入ったものは、飲みかけの缶ビールだった。禁酒を約束した妻が口にしていたものと直ぐ、察した。

私は、みんなを喜ばせようと買って来た、袋一杯のお菓子の中から、ポッキーの箱を取り出し、その箱で、無言で妻の頭を一度叩き、続けた。

「禁酒を約束してから、まだ2週間も経ってないんだぞ?まだ、舌の根も乾かないのに、よく約束を破る事ができるな?俺が今日帰って来てなかったら、平気で嘘をついていたって事じゃないか?一体何を考えているんだ!ふざけるな!」

「ごめんなさい、、、」

妻の行動により、本来楽しく過ごす筈だった家族との時間が一変した。私は怒りを抑えるのが精一杯だった。私はこの時点で、妻が平気で嘘をつく事が出来る人間になってしまった、いや、平気で嘘をつく人間だったんだと確信した。やはり、妻をこのまま、ここで暮らさせる事は難しいと強く感じた。私の単身赴任先で一緒に暮らし、監視までではないが、おかしな行動があれば注意して、修正していかなければ、妻はどんどん嘘をつき、やがては夫婦として破綻してしまうと感じざるを得なかった。

先ずは、先日、妻と約束した通り、私たち夫婦が単身赴任先で一緒に暮らしたいとう意向を、子供達へ伝えることにした。

その日、妻が作った夕食の味は全く覚えていない。ほぼ沈黙の状態で家族5人で食事を終えた後に、改めて、長女、長男、次男と妻を居間へ集め、私達夫婦が単身赴任先で2人で暮らしていきたいと言う気持ちを子供達に伝える為に、私は子供達へ対して口を開いた。