交渉戦術の馬鹿らしさ | 石橋法律事務所のブログ

交渉戦術の馬鹿らしさ

交渉戦術の一つとして、「決定権者を同席させない」というものがある。



決定権者がいると、その場で言いくるめられて、思わぬ妥協を迫られるので、わざと決定権者を同席させず、相手方の要求を全て持ち帰りにしてしまうわけである。



裁判所の方で、和解期日に会社の代表者も同行させるように、と会社の代理人に指示しても、やれ海外出張がどうのこうのといろいろ表面上の理由をつけて、代表者の同行をあからさまに拒む代理人がいる。



こういう対応をとられるのは、好きか嫌いかといえば、嫌いである。



裁判官の方からも、ある程度、そういう交渉戦術は見透かされていて(それは、裁判官だって、年に百件以上も和解交渉などに立ち会うわけだから、見透かされて当然である)、



「代表者が立ち会えないなら、携帯電話ですぐ連絡がとれるようにしておきなさい」とか、



「では、代表者が同席できる日時に裁判期日を変更しましょうか」



などと言われることになるわけである。



さて、こちらが決定権者(依頼者本人)を同行させて交渉のテーブルに臨んだのに、先方が決定権者を同行させなかった場合の対応はどうすればよいのか。



一つの対応としては、「こちらも裏の決定権者を作る」ということである。



例えば、「この件は税金にも影響するので、この内容で和解してよいか、税理士に確認してから回答したい。」とか、「大事なことなので、妻(ないし夫)と相談してから決めたい」などと言って、



その場にいる決定権者以外の裏の決定権者を作り出して、こちらも提案を持ち帰りにする、という手法である。



ただ、このようにして、双方がその場で結論を出さず、提案を全て持ち帰り検討していると、正直な話、交渉がまとまらず、大変時間がかかる。



少し前も、そんなことを繰り返して10回以上、交渉のテーブルに立たねばならない事案があった。



交渉戦術について全く理解していない相手になら、効果的な戦術なのかもしれないが、ある意味、相手の手の内を見透かしている者同士で、こういう交渉戦術を繰り返すのは馬鹿らしいと思う。



最初から、お互いに決定権のある人を同席させた方が話し合いが早くまとまるなら、さっさと同席させて、早期解決を目指すべきであろう、と思う。