最高裁判例のインパクト | 石橋法律事務所のブログ

最高裁判例のインパクト

本日は、最高裁が水俣病の認定について、新判断を示したというニュースが一面記事となっている。



しかし、当該最高裁判決のインパクト、影響という点では、少なくとも弁護士業界においては、同じ日に出された別の判決の方が大きい。



債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,特定の債権者の債権につき消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針に伴う不利益等や他の選択肢を説明すべき委任契約上の義務を負うとされた事例



http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83191&hanreiKbn=02



弁護士を通じた債務整理を行う場合、一部の強硬な債権者は、元本だけでなく、利息、遅延損害金も含めて全額支払わなければ和解しない、と対応してくることがある。



このような強硬な債権者に対する方針として、いわゆる「時効待ち」という方針があり、「当該債権が消滅時効するまで放置しておく」というものである。



問題となった事案では、債務整理を任された弁護士が、一部の債権者に対し時効待ち方針をとって処理を放置したところ、それに伴うリスク(遅延損害金が拡大して債権者から提訴や強制執行を受けるなど)や、他の金融機関から回収した過払金をもって弁済を行うという和解方針をとれることの説明を行わなかったとして、説明義務違反があるとされた。



判決文の中では、債務整理の際の「時効待ち」という方針について、



「本件において被上告人が採った時効待ち方針は,DがAに対して何らの措置も採らないことを一方的に期待して残債権の消滅時効の完成を待つというものであり,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるばかりか,当時の状況に鑑みてDがAに対する残債権の回収を断念し,消滅時効が完成することを期待し得る合理的な根拠があったことはうかがえないのであるから,Dから提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクをも伴うものであった。」



と評価しており、債務整理の方針としての適切性に疑義があるような書き方となっている。



特に、田原裁判官の補足意見では、より鮮明に時効待ち方針は「原則として適切な債務整理の手法とは言えない。」と断じている。



ところが、実際問題、弁護士が債務整理をする際に、「時効待ち」という方針はごく一般的にとられる方針である。



だが、今回の最高裁判決は、「時効待ち」方針をとる場合は、依頼者にそのリスクや他の選択肢もあることをきちんと説明しなければ、善管注意義務違反になると言っている点で、今後は「時効待ち」という手法は採りづらくなっていくと思われる。



私自身は、「時効待ち」方針はとったことはないが、「時効待ちも辞さない対応」をとって、2年前後かかって債権者との和解を成立させたことは2回ほどあったと記憶している。



債権者と債務者で支払額や支払方法の折り合いがつかないことは、ごく一般的にあるので、それで条件面で折れなかったから問題だ、ということには直ちにはならないと思う。



だが、債務者側代理人の方で、あからさまに、こちらの方針に従わないなら、時効待ちで放置するよ、という対応をとるのは、あまりスマートなやり方ではないのだろうと思う。



今回、訴えられた弁護士は実は同期の弁護士さんである。



自戒を込めて、「過ぎたるは及ばざるがごとし」であると改めて思った。