2001年9月
夏が終わるとすぐに大会モードになる。
今年は全日本選手権の前に
インカレの選手登録メンバーを決めるセレクションが行われる。
俺はこれまでの実績は皆無なので、
今度の全日本で結果を出してアピールしたかったんだが、
それがかなわない。
2週間後のセレクションで敗れれば即終わり。
インカレでチームを優勝に導いて退部しようと思っていた俺にとっては、
絶対に負けられない勝負が迫っていた。
一方、七瀬さんにも勝負が迫っていた。
七瀬さんはキャビンアテンダント(以後「CA」)になりたかった。
その就職試験の1次を突破して、
2次試験の準備に追われていたのだ。
でも、七瀬さんもCRESTでの最後のインカレになんとしても勝ちたい。
だから、練習しながらの就職活動を強いられていた。
俺と七瀬さんは、置かれている状況は違っていたが、
お互い大きなプレッシャーと戦っていた。
七瀬さんが練習に参加する時は常に一緒に行動した。
狙ってそうしているわけじゃないんだが、
同じ浜で、共に上級生。
普段の行動パターンがどうしても似てきてしまうのだ。
いや、無意識のうちに合わせていたのかな・・・。
七瀬さんが22歳の誕生日を迎える数日前、
CAの2次の結果が出た。
合格!!!
真っ先に連絡をくれた。
試験はまだ最終の3次が残っているが、
2次通過の報告を自分にしてくれたことがすごく嬉しかった。
そして誕生日は2人で会えることになった。
久々に七瀬先輩の家に行った。
相変わらず整理整頓されていてキレイだ。
七瀬さんはもっとキレイだ。
でも、
今はまだダメだ!
なんとしてもインカレで結果を出して、それから告白するんだ。
俺は意地で手を出さなかった。
そんな度胸もないんだけど。
ささやかなプレゼントをあげた。
重くなりすぎず、
かといって手抜きにもならない絶妙なプレゼント。
翌日、
「昨日はありがとう。とてもかわいくてびっくり!
これから羽田に夢を叶えにいってきます!!」
ってメールをもらった。
こういうメールをもらうと俺も勇気が湧いてくる。
ふと空を見上げる。
こっちはボード練。
大礒の沖で見上げる空。
向こうは今頃羽田へ向かう電車の中だろうか。
窓から覗く景色には綺麗な青空が映っているはずだ。
お互い、離れたところにいるけれど、
見上げた空はきっと繋がっている。
ボード練はしんどい。
大礒はみんな速いから、
いつも勝ったり負けたり。
でも、俺は負けない。
負けるわけにはいかないんだ。
辛い時は空を見よう。
そして、9月17日。
決戦の時はきた。
セレクションは一発勝負。
ここで3位以内くらいに入れないと厳しい。
ライバルになりそうなのは6人。
CRESTの絶対的エースの洋介さん、
大礒からは棟田先輩、同期の拓郎、後輩の武井。
そして二宮からは同期の八賀と、去年のボードリレーメンバーである堀田先輩。
そして俺。
この7人の中で3位。
厳しいか・・・?
いや、もう俺はいままでの俺じゃないはずだ。
去年、インカレ練で、
選手登録メンバー全員に置いてきぼりにされていた俺ではない。
ボードに賭けたCRESTの男子部員20人余りが、ズラリとスタートラインに並んだ。
これだけたくさんいたら、出遅れたら終わりだ。
これまでに味わったことのないような緊張感が押し寄せる。
ドクン、ドクン、ドクン・・・。
よーーーい、ピッ!!!
みんな一斉に海に向かって走り出した。
いきなり目の前に巨大なショアブレイク(波打ち際に打ちつける大きな波)が立ちはだかった。
俺は、一瞬スピードを緩めた。
今いくと飲まれる・・・。
そして次の瞬間、
今だっ!
波がブレイクする瞬間に突っ込んだ。
ギリギリで波を越え、
滑り込むようにボードに乗った。
絶好のスタート!
最初の波で半分以上の部員が飲まれた。
俺と同じように、スタートがうまくいったのは、
棟田先輩と拓郎の大礒メンバーだった。
横に三人が並ぶ。
でも、俺の武器はここから。
俺は、スタート後の第1ブイまで沖へのパドルが得意だった。
スタートはあまりうまくないが、今回はうまくいった。
だから、ここからは俺の土俵だ。
第1ブイに向かう道中、
俺はぐいぐいと前に出た。
第1ブイではなんとトップに立っていた。
少し遅れて拓郎、そしてその後ろに棟田さん。
エースの洋介さんや、他の有力どころは軒並み出遅れた。
最終ブイを回って、最後の直線に入った。
依然として先頭をキープ。
ここまでくれば、よっぽどの大きな波でも来ないかぎり、
逃げ切れる!
ゴールまであと10メートル・・・
・・・!!!
ふと後ろを見ると、
モーレツに大きな波が俺のすぐ後ろまできていた。
みんな波に乗れず、ボードをふっ飛ばすメンバーもいる中、
ただ二人、その波を掴んだ男がいた。
洋介さんと拓郎・・・。
こ、このタイミングじゃ乗れない・・・っ!!!
バッシャーン!!!
俺は思いっきり波にまかれた。
気付くと、俺の赤いボードはすぐ近くを漂っていて、
俺はあわててそれを回収しゴールした。
な、何位だ・・・?
前を見ると、洋介さんと拓郎が一足早くゴールしていた。
さ、3位だ・・・!!!
俺は、3位でゴールしたのだった。
や・・・やったーっ!!!
残った!!!
緊張感から解放され、喜びが込み上げてきた。
3位。
それは、まだインカレの出場メンバーとして決まったわけではないが、
インカレの選手登録が約束された瞬間だった。
登録選手だけがレース用のキャップをもらえる。
登録選手だけが選手用の宿泊施設に泊まれる。
これまでの2年間、
それらの特権を味わい、ホテルでリラックスしている選手たちを
唇をかみしめて見てきた。
やっと俺も・・・。
レース後、
「速かったねー」
「おまえが一番速かったよ」
称賛の嵐。
そして、それを見ていた七瀬さんも、
「よかったじゃん。でも、これからが勝負だから。負けんなよ!」
と言ってくれた。
喜びが込み上げてくる。
この調子で週末に迫った全日本でも結果を出してやる!!
俺はそう誓った。
そして迎えた全日本。
俺は、個人はボードレース、
そして団体ではタップリンリレーのボードを任された。
初日。
まずはボード。
これまで全日本、サーフカーニバル合わせて4回、
すべて予選1つめで負けていた。
こんどこそ!!!
よーい、ホアーーーン(スタートの合図)!!!
あっ!出遅れた!!
でも、落ち着け!!
必ず追いつける!!!
結果・・・
通過!!!
5人抜けの4位でセミファイナルへの進出を決めた。
やったっ!!!!
初めて受け取るコインロッカーのキーホルダーみたいな札。
これがほしかったんだ。
なんか、勢いに乗っている気がした。
そして迎えたタップリンリレー。
順番はスイム、ボード、サーフスキー。
スイムの武井が7位で帰ってきた。
このままでは決勝に残れない!!
俺は必死に前を追った。
なんとか一人抜いて、4,5位を手の届くところに置く、
6位で棟田さんに繋いだ。
棟田さん、頼むっ!!!
棟田さんは2人抜いてくれた。
4位でゴール!!!
見事決勝進出!!!
学生だけで組んだチームとしては快挙だった。
やったーっ!!!!!
大会って、楽しい・・・!!!
初めて結果を出すことができた。
あとは個人のボードも決勝に残って、
リレーと合わせて2種目で入賞してやろう!!!
いや、メダルも狙えるかもしれない・・・。
喜びと期待感で胸いっぱいの俺の前に、
浮かない表情の七瀬さんが現れた。
あれ?
「アダコー、私・・・ボード召集漏れしちゃった・・・」
えっ!?
まじで!?
なんと、七瀬さんがレース時間を間違えて、
得意のボードレースで失格になってしまったのだ。
俺がやるならわかるが、
七瀬さんらしからぬミス。
彼女は激しく落ち込んでいた。
なんて声をかければいいんだろう・・・。
俺は必死に考えをふりしぼって言った。
「ボードはインカレで晴らしましょうよ!
それにまだランスイ(走って泳いで走ってのランスイムランという個人種目)
の決勝だってあるじゃないですか!
今回のボードは自分が七瀬さんの分も頑張りますから、
一緒に頑張りましょうよ!!!」
「そうだね。ありがとう。」
ちゃんと伝わったんだろうか・・・。
そして迎えたボードのセミファイナル。
昨年の全日本ボードレース2位飯山さん、
日本代表の森さん、
招待選手のルーク、
元日本代表の荒城さん、
元日体大エースの青山さん。
昨年のインカレ王者順大のエース格永島さん。
すごい組に入ってしまった。
彼らの中で、誰か一人二人倒さなければ、
俺の決勝進出はない。
七瀬さんの分も負けるわけにはいかない・・・。
よーい・・・ホアーーーン!!!
あっ!また出遅れた!!
でも、ここからだっ!!!
バシャン!バシャン!バシャン!バシャン!
日本トップクラスの人たちが先行していったあとの海は、
グチャグチャでどうしようもない海面になる。
俺はその後ろを、バランスを崩されながらも必死に前を追った。
一人抜き、
二人抜き、
そして飯山さんも抜いた。
いける!いける!いくしかないっ!!!
夢中になって漕いだ。
そして、
ゴール!!!
何番だ・・・?
すぐに順位の書かれた札をもらった。
札をもらえるのは決勝進出者プラス3人程度。
もらえたからといって、決勝進出ではない。
おそるおそる札をひっくり返す。
5人抜け。
招待選手は順位に含まないはずだから、
この組は「6」までが決勝進出だ・・・。
「7」
な、なな・・・?
ななせさんのなな・・・!?
俺の準決勝敗退が決まった。
でも、決勝進出者の中にレース中、
なにかしらの反則が認められた場合、
その選手は失格となり、
次点の選手が繰り上げで決勝にいける。
淡い期待を胸に、
決勝進出者のメンバー表を確認したが、
やはりダメだった。
七瀬さん、ごめん・・・。
「お疲れ!惜しかったじゃん。
明日はタップリンのボードか。頑張れよ!あたしも頑張る!」
ねぎらいの言葉をもらった。
少しは頼もしい男になれたかな・・・?
翌日。
決勝の日。
「アダコー、悪い!一生のお願いだから、
タップリンのボード代わってくれねーか??」
拓郎に言われた。
正直、俺も出たかったが、
そんな俺の気持ちを知った上での直談判。
よっぽどの覚悟で言ってきたんだろう。
「いいよ。じゃあ。」
俺は譲ることにした。
俺にはインカレのタップリンボードがある。
だから、今回だけは彼の気持ちを尊重しよう。
そして、決勝の日は、俺の出番は無くなった。
でも、そのおかげですごいものを直接この目で見ることができた。
七瀬さん、ランスイ銀メダル!!!
全身にトリハダが立った。
ゴール後、思わず駆け寄った。
そして、敬語が飛んだ。
「やったな!!!」
「やったよ!!!」
「すげーよ!!!」
「やったよ!!!」
「インカレもがんばろーぜ!」
「おう!!!」
思わず抱き締めたかったが、それは許してもらえなかった。
でも、やっぱり俺の愛した女はすげえっ!!!
七瀬さんのすごさを再認識した。
こうして、収穫の多い全日本は幕を閉じた。
翌週、七瀬さんのCA最終結果が出た。
七瀬さんからのメールを意味する指定着メロが流れた。
ど、どうなんだ・・・?
「アダコー、だめだったよ・・・。」
うあああっ!!!落ちたかっ!!!
落ちたことは仕方ないとして、
どうやって気持ちを立て直す力になれるのか、
また必死になって考えた。
「がんばれ!ナナセー!!負けんな!ナナセーっ!!」
こんなことしか言えなかった。
でも、それが俺の思いついた言葉だったから仕方ない。
こんな時、なんて言ってあげられるのが一番いいんだろう。
翌朝、二人で海に出かけた。
二人でインカレに向けた練習をして、
そのまま二人で朝食にガストへ向かった。
「昨日はありがとね。またイチから頑張るよ」
「そうっすよ!インカレ優勝して、就職も優勝しましょう!」
「なんか意味わかんないけど、がんばろ!」
試験に落ちた夜、彼女は髪を染めた。
しばらく就職試験がないので、
カラスのように黒かった髪を、少し明るい茶色にしていた。
そんな彼女はよりいっそうキレイに見えて、
一緒にいるだけでドキドキした。
今月は浮き沈みの激しい月だったけど、
来月はなんとしてもインカレで優勝して、
目の前にいる彼女を本当の彼女にして、
浮き浮き、ウキウキの月にしてやろう。
そう俺は心に誓うのだった。
夏が終わるとすぐに大会モードになる。
今年は全日本選手権の前に
インカレの選手登録メンバーを決めるセレクションが行われる。
俺はこれまでの実績は皆無なので、
今度の全日本で結果を出してアピールしたかったんだが、
それがかなわない。
2週間後のセレクションで敗れれば即終わり。
インカレでチームを優勝に導いて退部しようと思っていた俺にとっては、
絶対に負けられない勝負が迫っていた。
一方、七瀬さんにも勝負が迫っていた。
七瀬さんはキャビンアテンダント(以後「CA」)になりたかった。
その就職試験の1次を突破して、
2次試験の準備に追われていたのだ。
でも、七瀬さんもCRESTでの最後のインカレになんとしても勝ちたい。
だから、練習しながらの就職活動を強いられていた。
俺と七瀬さんは、置かれている状況は違っていたが、
お互い大きなプレッシャーと戦っていた。
七瀬さんが練習に参加する時は常に一緒に行動した。
狙ってそうしているわけじゃないんだが、
同じ浜で、共に上級生。
普段の行動パターンがどうしても似てきてしまうのだ。
いや、無意識のうちに合わせていたのかな・・・。
七瀬さんが22歳の誕生日を迎える数日前、
CAの2次の結果が出た。
合格!!!
真っ先に連絡をくれた。
試験はまだ最終の3次が残っているが、
2次通過の報告を自分にしてくれたことがすごく嬉しかった。
そして誕生日は2人で会えることになった。
久々に七瀬先輩の家に行った。
相変わらず整理整頓されていてキレイだ。
七瀬さんはもっとキレイだ。
でも、
今はまだダメだ!
なんとしてもインカレで結果を出して、それから告白するんだ。
俺は意地で手を出さなかった。
そんな度胸もないんだけど。
ささやかなプレゼントをあげた。
重くなりすぎず、
かといって手抜きにもならない絶妙なプレゼント。
翌日、
「昨日はありがとう。とてもかわいくてびっくり!
これから羽田に夢を叶えにいってきます!!」
ってメールをもらった。
こういうメールをもらうと俺も勇気が湧いてくる。
ふと空を見上げる。
こっちはボード練。
大礒の沖で見上げる空。
向こうは今頃羽田へ向かう電車の中だろうか。
窓から覗く景色には綺麗な青空が映っているはずだ。
お互い、離れたところにいるけれど、
見上げた空はきっと繋がっている。
ボード練はしんどい。
大礒はみんな速いから、
いつも勝ったり負けたり。
でも、俺は負けない。
負けるわけにはいかないんだ。
辛い時は空を見よう。
そして、9月17日。
決戦の時はきた。
セレクションは一発勝負。
ここで3位以内くらいに入れないと厳しい。
ライバルになりそうなのは6人。
CRESTの絶対的エースの洋介さん、
大礒からは棟田先輩、同期の拓郎、後輩の武井。
そして二宮からは同期の八賀と、去年のボードリレーメンバーである堀田先輩。
そして俺。
この7人の中で3位。
厳しいか・・・?
いや、もう俺はいままでの俺じゃないはずだ。
去年、インカレ練で、
選手登録メンバー全員に置いてきぼりにされていた俺ではない。
ボードに賭けたCRESTの男子部員20人余りが、ズラリとスタートラインに並んだ。
これだけたくさんいたら、出遅れたら終わりだ。
これまでに味わったことのないような緊張感が押し寄せる。
ドクン、ドクン、ドクン・・・。
よーーーい、ピッ!!!
みんな一斉に海に向かって走り出した。
いきなり目の前に巨大なショアブレイク(波打ち際に打ちつける大きな波)が立ちはだかった。
俺は、一瞬スピードを緩めた。
今いくと飲まれる・・・。
そして次の瞬間、
今だっ!
波がブレイクする瞬間に突っ込んだ。
ギリギリで波を越え、
滑り込むようにボードに乗った。
絶好のスタート!
最初の波で半分以上の部員が飲まれた。
俺と同じように、スタートがうまくいったのは、
棟田先輩と拓郎の大礒メンバーだった。
横に三人が並ぶ。
でも、俺の武器はここから。
俺は、スタート後の第1ブイまで沖へのパドルが得意だった。
スタートはあまりうまくないが、今回はうまくいった。
だから、ここからは俺の土俵だ。
第1ブイに向かう道中、
俺はぐいぐいと前に出た。
第1ブイではなんとトップに立っていた。
少し遅れて拓郎、そしてその後ろに棟田さん。
エースの洋介さんや、他の有力どころは軒並み出遅れた。
最終ブイを回って、最後の直線に入った。
依然として先頭をキープ。
ここまでくれば、よっぽどの大きな波でも来ないかぎり、
逃げ切れる!
ゴールまであと10メートル・・・
・・・!!!
ふと後ろを見ると、
モーレツに大きな波が俺のすぐ後ろまできていた。
みんな波に乗れず、ボードをふっ飛ばすメンバーもいる中、
ただ二人、その波を掴んだ男がいた。
洋介さんと拓郎・・・。
こ、このタイミングじゃ乗れない・・・っ!!!
バッシャーン!!!
俺は思いっきり波にまかれた。
気付くと、俺の赤いボードはすぐ近くを漂っていて、
俺はあわててそれを回収しゴールした。
な、何位だ・・・?
前を見ると、洋介さんと拓郎が一足早くゴールしていた。
さ、3位だ・・・!!!
俺は、3位でゴールしたのだった。
や・・・やったーっ!!!
残った!!!
緊張感から解放され、喜びが込み上げてきた。
3位。
それは、まだインカレの出場メンバーとして決まったわけではないが、
インカレの選手登録が約束された瞬間だった。
登録選手だけがレース用のキャップをもらえる。
登録選手だけが選手用の宿泊施設に泊まれる。
これまでの2年間、
それらの特権を味わい、ホテルでリラックスしている選手たちを
唇をかみしめて見てきた。
やっと俺も・・・。
レース後、
「速かったねー」
「おまえが一番速かったよ」
称賛の嵐。
そして、それを見ていた七瀬さんも、
「よかったじゃん。でも、これからが勝負だから。負けんなよ!」
と言ってくれた。
喜びが込み上げてくる。
この調子で週末に迫った全日本でも結果を出してやる!!
俺はそう誓った。
そして迎えた全日本。
俺は、個人はボードレース、
そして団体ではタップリンリレーのボードを任された。
初日。
まずはボード。
これまで全日本、サーフカーニバル合わせて4回、
すべて予選1つめで負けていた。
こんどこそ!!!
よーい、ホアーーーン(スタートの合図)!!!
あっ!出遅れた!!
でも、落ち着け!!
必ず追いつける!!!
結果・・・
通過!!!
5人抜けの4位でセミファイナルへの進出を決めた。
やったっ!!!!
初めて受け取るコインロッカーのキーホルダーみたいな札。
これがほしかったんだ。
なんか、勢いに乗っている気がした。
そして迎えたタップリンリレー。
順番はスイム、ボード、サーフスキー。
スイムの武井が7位で帰ってきた。
このままでは決勝に残れない!!
俺は必死に前を追った。
なんとか一人抜いて、4,5位を手の届くところに置く、
6位で棟田さんに繋いだ。
棟田さん、頼むっ!!!
棟田さんは2人抜いてくれた。
4位でゴール!!!
見事決勝進出!!!
学生だけで組んだチームとしては快挙だった。
やったーっ!!!!!
大会って、楽しい・・・!!!
初めて結果を出すことができた。
あとは個人のボードも決勝に残って、
リレーと合わせて2種目で入賞してやろう!!!
いや、メダルも狙えるかもしれない・・・。
喜びと期待感で胸いっぱいの俺の前に、
浮かない表情の七瀬さんが現れた。
あれ?
「アダコー、私・・・ボード召集漏れしちゃった・・・」
えっ!?
まじで!?
なんと、七瀬さんがレース時間を間違えて、
得意のボードレースで失格になってしまったのだ。
俺がやるならわかるが、
七瀬さんらしからぬミス。
彼女は激しく落ち込んでいた。
なんて声をかければいいんだろう・・・。
俺は必死に考えをふりしぼって言った。
「ボードはインカレで晴らしましょうよ!
それにまだランスイ(走って泳いで走ってのランスイムランという個人種目)
の決勝だってあるじゃないですか!
今回のボードは自分が七瀬さんの分も頑張りますから、
一緒に頑張りましょうよ!!!」
「そうだね。ありがとう。」
ちゃんと伝わったんだろうか・・・。
そして迎えたボードのセミファイナル。
昨年の全日本ボードレース2位飯山さん、
日本代表の森さん、
招待選手のルーク、
元日本代表の荒城さん、
元日体大エースの青山さん。
昨年のインカレ王者順大のエース格永島さん。
すごい組に入ってしまった。
彼らの中で、誰か一人二人倒さなければ、
俺の決勝進出はない。
七瀬さんの分も負けるわけにはいかない・・・。
よーい・・・ホアーーーン!!!
あっ!また出遅れた!!
でも、ここからだっ!!!
バシャン!バシャン!バシャン!バシャン!
日本トップクラスの人たちが先行していったあとの海は、
グチャグチャでどうしようもない海面になる。
俺はその後ろを、バランスを崩されながらも必死に前を追った。
一人抜き、
二人抜き、
そして飯山さんも抜いた。
いける!いける!いくしかないっ!!!
夢中になって漕いだ。
そして、
ゴール!!!
何番だ・・・?
すぐに順位の書かれた札をもらった。
札をもらえるのは決勝進出者プラス3人程度。
もらえたからといって、決勝進出ではない。
おそるおそる札をひっくり返す。
5人抜け。
招待選手は順位に含まないはずだから、
この組は「6」までが決勝進出だ・・・。
「7」
な、なな・・・?
ななせさんのなな・・・!?
俺の準決勝敗退が決まった。
でも、決勝進出者の中にレース中、
なにかしらの反則が認められた場合、
その選手は失格となり、
次点の選手が繰り上げで決勝にいける。
淡い期待を胸に、
決勝進出者のメンバー表を確認したが、
やはりダメだった。
七瀬さん、ごめん・・・。
「お疲れ!惜しかったじゃん。
明日はタップリンのボードか。頑張れよ!あたしも頑張る!」
ねぎらいの言葉をもらった。
少しは頼もしい男になれたかな・・・?
翌日。
決勝の日。
「アダコー、悪い!一生のお願いだから、
タップリンのボード代わってくれねーか??」
拓郎に言われた。
正直、俺も出たかったが、
そんな俺の気持ちを知った上での直談判。
よっぽどの覚悟で言ってきたんだろう。
「いいよ。じゃあ。」
俺は譲ることにした。
俺にはインカレのタップリンボードがある。
だから、今回だけは彼の気持ちを尊重しよう。
そして、決勝の日は、俺の出番は無くなった。
でも、そのおかげですごいものを直接この目で見ることができた。
七瀬さん、ランスイ銀メダル!!!
全身にトリハダが立った。
ゴール後、思わず駆け寄った。
そして、敬語が飛んだ。
「やったな!!!」
「やったよ!!!」
「すげーよ!!!」
「やったよ!!!」
「インカレもがんばろーぜ!」
「おう!!!」
思わず抱き締めたかったが、それは許してもらえなかった。
でも、やっぱり俺の愛した女はすげえっ!!!
七瀬さんのすごさを再認識した。
こうして、収穫の多い全日本は幕を閉じた。
翌週、七瀬さんのCA最終結果が出た。
七瀬さんからのメールを意味する指定着メロが流れた。
ど、どうなんだ・・・?
「アダコー、だめだったよ・・・。」
うあああっ!!!落ちたかっ!!!
落ちたことは仕方ないとして、
どうやって気持ちを立て直す力になれるのか、
また必死になって考えた。
「がんばれ!ナナセー!!負けんな!ナナセーっ!!」
こんなことしか言えなかった。
でも、それが俺の思いついた言葉だったから仕方ない。
こんな時、なんて言ってあげられるのが一番いいんだろう。
翌朝、二人で海に出かけた。
二人でインカレに向けた練習をして、
そのまま二人で朝食にガストへ向かった。
「昨日はありがとね。またイチから頑張るよ」
「そうっすよ!インカレ優勝して、就職も優勝しましょう!」
「なんか意味わかんないけど、がんばろ!」
試験に落ちた夜、彼女は髪を染めた。
しばらく就職試験がないので、
カラスのように黒かった髪を、少し明るい茶色にしていた。
そんな彼女はよりいっそうキレイに見えて、
一緒にいるだけでドキドキした。
今月は浮き沈みの激しい月だったけど、
来月はなんとしてもインカレで優勝して、
目の前にいる彼女を本当の彼女にして、
浮き浮き、ウキウキの月にしてやろう。
そう俺は心に誓うのだった。