2001年12月
腰を痛めた俺は病院でMRIを撮った。
「腰椎のヘルニアですね」
いわゆる椎間板ヘルニアだ。
しかし、このヘルニア、
飛びだした軟骨が神経に触れるから痛みがでるのだが、
俺のヘルニアはあまり神経には触れておらず、
軽症の部類に入るものだった。
克服方法は、腰のリハビリストレッチと、超音波治療、
そして腹筋背筋などの体幹トレーニングだと言われた。
幸い、東海大学は、治療設備も整っていて、
超音波治療はいつでも行うことができた。
俺は、言われた通りに体幹部のトレーニングを増やした。
そして、サーフスキーやスイム、ランといったその他のトレーニングも、
継続して行った。
まだどこに向かっているのかはわからない。
でも、とにかく今は鍛えるしかない。
何も煩悩にさらされることなくトレーニングを続けた。
そんな時、俺の携帯が怪しく光り、
平井堅の「even if...」が流れた。
この指定着メロを聞くのはいつ以来だろう。
七瀬さんからだった。
「JANAのグランドホステスが受かったよ!」
JANAとは、日本で一番有名な航空会社だ。
そこの、チェックインなどの受付をする、
グランドホステスという職が内定したそうだ。
俺はいっさい就職活動をしてないからわからないけど、
それでもTVのニュースでたびたび言われている言葉が、
「就職氷河期」だ。
中でも、女子の就職率はひどいらしく、
人気のJANAに就職できるということは、
とてもすごいことのような気がした。
そしてなにより、向こうから俺に報告メールを
送ってきてくれたことがなんか嬉しかった。
男って単純だ。
マイナス思考で塗り固められようとしていた
七瀬さんへの負のイメージが一瞬で洗い流された気がした。
今は、やっぱりあなたが好きだという気持ちは、持たないようにしている。
でも、単純に、人としてスゲーなと思った。
競技も強くて、最後はインカレで女子を2連覇に導いて、
そして就職もキッチリ決めた。
なんてカッコイイ人なんだと思った。
それに比べ、俺はなんて中途半端なんだろう。
もうすぐ4年生になるっていうのに、
いまだに何がしたいのか、
そもそも就職したいのか、
そしてCRESTで来年もやっていくのか、
何も決められずにいた。
そんな時、岡村さんから食事の誘いをいただいた。
久しぶりに行く岡村さんの家。
相変わらずの海近物件。
相変わらずのドラム式洗濯機。
そして、
相変わらずキレイで浜崎あゆみに似た彼女。
消防士の彼と看護師の彼女。
なんと羨ましいことか。
ああ、そうだ。
この人も、4年間CRESTを全うして、
大会で結果を出して、就職も決めた人だ。
やっぱり、部活も就職もおろそかにしなかった人は眩しい。
そこで色んな話を聞かせてもらった。
そんな中で、特に印象的だったのは、彼女さんに聞いた、
どうして岡村さんと付き合ったのかということだ。
岡村さんは、昔からこの人のことが好きだったんだけど、
1回フラれているらしい。
でもどうして、今、こうして付き合って、同棲しているのか、
聞いてみると、すごく面白い言葉が返ってきた。
「振った後も、今、彼はどうしているんだろうと気になってたの。
でも、そのあと、お互い別々の人と付き合ったから、
彼とどうこうという気持ちはなかった。
でも、お互い別れてフリーになって久々に会ったときに、
人間的に大きく成長した彼がそこにいたの。」
なんか、岡村さんが神に見えた。
1度フラれたってところは俺と一緒じゃないか!
そこからこの人は、彼女を振り向かせるまでに己を磨いたのか。
続いて、こうも言われた。
「もし次、安達君が七瀬さんと会ったときに、
七瀬さんに彼氏がいたとしても、その上をいってればいーんだよ。」
そうか!!!
そういうことか!!!
俺も、好きな女にここまで言われる男になりたい。
じゃあやるしかない。
俺の心は決まった。
最後まで、
最後のインカレまで走り続けてやろうじゃないか!
こんどこそ、俺がタップリンのボードに選ばれて、
チームを優勝に導いてやろうじゃないか!!
そして、就職もしよう。
俺が目指すべき就職先は・・・
・・・・・消防だ。
インカレ優勝と消防士。
両方手に入れられたら、その時はきっと、
七瀬さんが誰と付き合っていようが、
俺のほうが人間的にデッカイ存在になってるはずだ。
まぁ、ぶっちゃけ、七瀬さんとどうこうなりたいというより、
俺も、七瀬さんや岡村さんのように、
結果を出せる人間になりたいと思ったのだ。
目標はハッキリした。
すると、次に何をしなくてはならないかがポンポン浮かんでくる。
まずは、オーストラリア。
最後のインカレを、俺が不動のエースとして迎えるためには、
あの、ワンダでの生活は外せない。
かといって、公務員試験の勉強をおろそかにするわけにもいかない。
だから、教本をオーストラリアに持ち込んで、
勉強とトレーニングを両立させなければ。
そうなると、お金はどうしよう・・・。
前みたいに、身を滅ぼしながら夜勤でバイトを続けると、
トレーニングも勉強も絶対におろそかになる。
ならば・・・
俺が進路を決めて、最初に向かった先は実家だった。
父は嫌いだ。
ずっと心で繋がっていなかった親子関係。
でも離婚して、働くようになった母に、
この金額は頼めない。
父とはあまりこういう話はしたくなかったが、
背に腹は代えられない。
単刀直入に頼んでみて、それでだめなら仕方ない。
俺は、初めて面と向かって、父と話をした。
消防士を目指すこと。
オーストラリアに行きたいこと。
そのためにお金がいること。
そして、最後に、
「オーストラリアに行かせてもらえたら、
必ず結果を出すから。」
こう、見栄を切ってみた。
すると、「わかった」と言って、
金銭援助を約束してくれた。
ふう。ありがとう。助かった。
これで行くことができる。
あとは、トレーニングと勉強に支障のきたさない範囲でバイトをして、
父に用意してもらう金額を少しでも小さくするだけだ。
俺は年末年始返上でバイトをすることにした。
やることのはっきり見えた生活って楽しいなぁ。
腰を痛めた俺は病院でMRIを撮った。
「腰椎のヘルニアですね」
いわゆる椎間板ヘルニアだ。
しかし、このヘルニア、
飛びだした軟骨が神経に触れるから痛みがでるのだが、
俺のヘルニアはあまり神経には触れておらず、
軽症の部類に入るものだった。
克服方法は、腰のリハビリストレッチと、超音波治療、
そして腹筋背筋などの体幹トレーニングだと言われた。
幸い、東海大学は、治療設備も整っていて、
超音波治療はいつでも行うことができた。
俺は、言われた通りに体幹部のトレーニングを増やした。
そして、サーフスキーやスイム、ランといったその他のトレーニングも、
継続して行った。
まだどこに向かっているのかはわからない。
でも、とにかく今は鍛えるしかない。
何も煩悩にさらされることなくトレーニングを続けた。
そんな時、俺の携帯が怪しく光り、
平井堅の「even if...」が流れた。
この指定着メロを聞くのはいつ以来だろう。
七瀬さんからだった。
「JANAのグランドホステスが受かったよ!」
JANAとは、日本で一番有名な航空会社だ。
そこの、チェックインなどの受付をする、
グランドホステスという職が内定したそうだ。
俺はいっさい就職活動をしてないからわからないけど、
それでもTVのニュースでたびたび言われている言葉が、
「就職氷河期」だ。
中でも、女子の就職率はひどいらしく、
人気のJANAに就職できるということは、
とてもすごいことのような気がした。
そしてなにより、向こうから俺に報告メールを
送ってきてくれたことがなんか嬉しかった。
男って単純だ。
マイナス思考で塗り固められようとしていた
七瀬さんへの負のイメージが一瞬で洗い流された気がした。
今は、やっぱりあなたが好きだという気持ちは、持たないようにしている。
でも、単純に、人としてスゲーなと思った。
競技も強くて、最後はインカレで女子を2連覇に導いて、
そして就職もキッチリ決めた。
なんてカッコイイ人なんだと思った。
それに比べ、俺はなんて中途半端なんだろう。
もうすぐ4年生になるっていうのに、
いまだに何がしたいのか、
そもそも就職したいのか、
そしてCRESTで来年もやっていくのか、
何も決められずにいた。
そんな時、岡村さんから食事の誘いをいただいた。
久しぶりに行く岡村さんの家。
相変わらずの海近物件。
相変わらずのドラム式洗濯機。
そして、
相変わらずキレイで浜崎あゆみに似た彼女。
消防士の彼と看護師の彼女。
なんと羨ましいことか。
ああ、そうだ。
この人も、4年間CRESTを全うして、
大会で結果を出して、就職も決めた人だ。
やっぱり、部活も就職もおろそかにしなかった人は眩しい。
そこで色んな話を聞かせてもらった。
そんな中で、特に印象的だったのは、彼女さんに聞いた、
どうして岡村さんと付き合ったのかということだ。
岡村さんは、昔からこの人のことが好きだったんだけど、
1回フラれているらしい。
でもどうして、今、こうして付き合って、同棲しているのか、
聞いてみると、すごく面白い言葉が返ってきた。
「振った後も、今、彼はどうしているんだろうと気になってたの。
でも、そのあと、お互い別々の人と付き合ったから、
彼とどうこうという気持ちはなかった。
でも、お互い別れてフリーになって久々に会ったときに、
人間的に大きく成長した彼がそこにいたの。」
なんか、岡村さんが神に見えた。
1度フラれたってところは俺と一緒じゃないか!
そこからこの人は、彼女を振り向かせるまでに己を磨いたのか。
続いて、こうも言われた。
「もし次、安達君が七瀬さんと会ったときに、
七瀬さんに彼氏がいたとしても、その上をいってればいーんだよ。」
そうか!!!
そういうことか!!!
俺も、好きな女にここまで言われる男になりたい。
じゃあやるしかない。
俺の心は決まった。
最後まで、
最後のインカレまで走り続けてやろうじゃないか!
こんどこそ、俺がタップリンのボードに選ばれて、
チームを優勝に導いてやろうじゃないか!!
そして、就職もしよう。
俺が目指すべき就職先は・・・
・・・・・消防だ。
インカレ優勝と消防士。
両方手に入れられたら、その時はきっと、
七瀬さんが誰と付き合っていようが、
俺のほうが人間的にデッカイ存在になってるはずだ。
まぁ、ぶっちゃけ、七瀬さんとどうこうなりたいというより、
俺も、七瀬さんや岡村さんのように、
結果を出せる人間になりたいと思ったのだ。
目標はハッキリした。
すると、次に何をしなくてはならないかがポンポン浮かんでくる。
まずは、オーストラリア。
最後のインカレを、俺が不動のエースとして迎えるためには、
あの、ワンダでの生活は外せない。
かといって、公務員試験の勉強をおろそかにするわけにもいかない。
だから、教本をオーストラリアに持ち込んで、
勉強とトレーニングを両立させなければ。
そうなると、お金はどうしよう・・・。
前みたいに、身を滅ぼしながら夜勤でバイトを続けると、
トレーニングも勉強も絶対におろそかになる。
ならば・・・
俺が進路を決めて、最初に向かった先は実家だった。
父は嫌いだ。
ずっと心で繋がっていなかった親子関係。
でも離婚して、働くようになった母に、
この金額は頼めない。
父とはあまりこういう話はしたくなかったが、
背に腹は代えられない。
単刀直入に頼んでみて、それでだめなら仕方ない。
俺は、初めて面と向かって、父と話をした。
消防士を目指すこと。
オーストラリアに行きたいこと。
そのためにお金がいること。
そして、最後に、
「オーストラリアに行かせてもらえたら、
必ず結果を出すから。」
こう、見栄を切ってみた。
すると、「わかった」と言って、
金銭援助を約束してくれた。
ふう。ありがとう。助かった。
これで行くことができる。
あとは、トレーニングと勉強に支障のきたさない範囲でバイトをして、
父に用意してもらう金額を少しでも小さくするだけだ。
俺は年末年始返上でバイトをすることにした。
やることのはっきり見えた生活って楽しいなぁ。