父が寝たきりになって
三ヶ月が経った頃、

再び母から連絡がきました。


やっぱりお父さんの事、バカ兄にも知らせた方が
ええと思う。


アカン、やめて。


連絡が来てん。居場所もわかってる。


ホンマに神経イカれてるわあの男。
どのツラ下げて連絡してきとんねん。
絶対に言わんといてな!



私は話しの途中で電話を切りました。


間違っているとわかっていても

母に初めて「知らせた方がいい」
と言われた日からその日まで
私の気持ちは少しも
ブレることはありませんでした。


だけど、その日、
父の面会に行き、
父の眠っている顔を見ているときに

「本当にこれでいいのか」

気づけば自分に自問自答していました。


父は話せない。
意思の疎通もできない。
本当の気持ちもわからない。


最悪の最後になった
父と兄の関係。


私は一旦、兄のことを考えるのはやめて、
父の気持ちを考えることにしました。



お父さんならどうするか


きっと、あんな別れ方をしても
最後は兄を許すだろうな。

今までもそうだったから。

その時どんなに怒っても
父は最後まで見捨てない。




知らせない事が本当に父の望みなのか


きっと違うと思う。
父なら、
自分がこんな状態になってるのを知らせて
自分の生き様を見せて
「後悔するなら立ち直れ」って言うと思う。



父は兄と会いたいだろうか


会いたいって言うと思う。

怒って、怒鳴って、、
でも最後には
「失敗した分頑張って取り戻せ」って
笑顔で励ますと思う。



そんな事を考えていたら、
「知らせないで」と言うのは
ただの私の気持ちなだけで、

父の気持ちじゃない。


お父さんなら、

「生きてる限り何度も立ち直れる」
身を持って、そう兄に教えるだろうなって。


お父さんという人を
一番わかっていると思っていたはずなのに

私は自分の気持ちばかりを優先していたことに
この時やっと気づいたのです。



私は母にすぐに電話をしました。



お父さんのこと、話していいよ。
お父さんのことを隠していたのは
私が口止めしてたからって言っていいから。



母はすぐに兄に父の事を話しました。


兄は、受け入れられなくて泣いていたと
後に母から聞きました。


私達がずっと味わってきた悲しみ。



父の現状を知り
それでも兄が変わらないのなら
一生変わることなんてできない。


父が与えてくれた
変われる最後のきっかけ。


父の為に変わってほしいという思いと
簡単に人は変われないという諦めた思いが



私の中で交錯していました。