コリコリ…… 第二十六回 | 中川忠の小説です。

中川忠の小説です。

中編小説を掲載しています。方針を変更して、毎日の連載にします。

「ほんなら、速攻に結婚したらええねんな。結婚さえしてもうたら、とやかく言われへんねんな?」と訊くと、

「そんな手もあるけど、ほんだら、わたしら、どうやって生活すんのん? わたし、まだたいした稼ぎあれへんし、セイちゃんが働いたところで、たいした収入が得られるわけでもあれへん。そんなんで二人、生活すんのん、カツカツやんか。それよりも、今のままで暮らした方が、セイちゃんは親御さんの下でご飯も食べられて、家賃もいらんし、わたしかって、一人だけの生活やったら、何とか維持できる」

「そうやなあ。そうした経済的なことは大事やからなあ。一時の熱だけで一緒になったとしても、二人、生活でけへんかったらしゃあない」

「そうやろ。そのためには、やっぱりセイちゃんの収入が必要やねんけど、セイちゃん、病気やから、そう簡単に定収入を稼げる仕事にありつくいうわけにもいかへん。取り敢えず最初は訓練っていう形で働くしかあれへん。そんなとこは、時給二百五十円とかが相場やから、そんなん、家計を支える給料としては、到底足れへん。そやから、今のところは、今の状況を維持して、お付き合いしていかなあかんわけやけど、そのためには、大桃さんに承認してもらわなあかん。その役目を、セイちゃんにしてもらいたいねん」

「二人のお付き合いの承認?」

「そう。二人がこのまま付き合ってもええでって、言うてもらわなあかん。当然わたしは、今のクリニックから西京病院に異動になるやろ。そらそうや。恋愛相手のセイちゃんのおるとこで、一緒には過ごさせてはもらわれへん。それはしゃあないって思うてる。わたしの仕事も厳しくなるやろう。それもしゃあない。わたしらの幸せのためやから、わたし、頑張るで」と理栄は意気軒高だ。

 ここは精一も張り切らないといけない。女性の理栄が二人の関係維持のために頑張ろうと決意するのだから、こちらだって、決意を固めなければならない。さしずめ彼が決行するのは、大桃作戦だ。

「分かった。ぼくも頑張るでー」と決意の言葉を述べた。

「まず、セイちゃんは、大桃さんに電話して、相談があるんですがって言うねん」とさっそく作戦の段取りに入っている。

「ほんで、実際に大桃さんに会う。だんだんとわたしのことを出していく。いきなり言うたらあかんで。セイちゃんみたいな病気の人に、こんな厳しい仕事さすのは気が引けるけど、どうしてもセイちゃん本人が話さなあかんと思うねん。先生や岩田さんに中に入ってもらういう手もあるけど、あのお二人は、わたしとセイちゃんの側にばっかりつかれへん。わたしと同僚であるのと同時に、大桃さんの同僚でもあんねんから。ほんだら、やっぱり、わたしより地位が上で、わたしより気の強い大桃さんの意見が通りやすなるやろう。そうなったら、わたしらほんとに別れなあかん。そやから、ここはセイちゃんに頑張ってもらわなあかんねん。さっそく明日にでも西京病院に電話してくれへんかなあ。大桃さんは患者の相談員やから、セイちゃんの話、聞いてくれる。そこでだんだんとわたしとのこと言うねん。向こうから訊いてくるかも知れんから、その場合は、素直に答えたらええ。決してごまかしたりせん方がええ。セイちゃんの正直な気持ちを訴えてくれたらええねん。作戦やなんて名前つけたけど、そんな名前の通りに、相手を騙したりする必要はあれへんねん。作戦っていうのは、わたしが仮につけた名前で、ほんとは相談やねん。あくまでも相談しに行くっていうのでええねん。大丈夫かなあ、セイちゃん?」と理栄は心配げに精一の顔を見上げた。

 精一はもとより十分覚悟はできていた。もし何かひどいことを言われたとしても、甘んじてその言葉を受けようと覚悟していた。

 そのことを理栄に名言すると、「ありがとう」と少し涙ぐんだ目をこちらに向けてくれた。

 そして二人は全裸で横たわったまま、また絆を結び合った。心地よいコリコリが彼の物を包み込んだ。

 翌朝九時きっかりに、精一は西京病院に電話をした。そして大桃さんに取り次いでもらった。

 その日の午後一時に西京病院に来いということだったので、精一は自転車を飛ばして行った。大桃さんは病院の玄関に立って待っていてくれた。そしてにこやかな顔で、彼を相談室に導いた。