「わたしは真剣なのよ」と静美は不意に斬り込んで来た。
「わたしは、あなたと結婚出来ないのなら、死んでもいいと思ってる。あなただけが生き残って他の女とやっているのは嫌だから、あなたも一緒に死んで欲しい」
「だから、そんな気味の悪いことは言うな。ぼくはまだ死にたくない」
「死にたくないのなら、わたしとお付き合いする?」
「脅迫するのか?」
「脅迫するわ。脅迫でも何でもする。わたしが好きになったのに、そのわたしがふられるなんて、そんなこと許されない。脅迫でもナイフでもピストルでも何でも使う。警察に訴えてもいいわよ。でも警察は相手にしてくれない。女の子に言い寄られて脅迫されてるんですなんて言っても、『いいよなあ、俺だって女の子に脅迫されたいよ』と言って笑われるだけだもの」と言って、静美は自分も声をあげて笑った。
この子はなかなか頭がいい。死んだ友理乃よりも頭がいいのじゃないだろうか。しかしその頭の良さを悪いことに使っている。今まで男たちに散々甘やかされてきたのだろう。その上美貌があるから、たいていの男は彼女に言い寄って来る。それらの男たちを選別して態度をはっきりするだけでも、結構頭を使うことだろう。
そんなにもてる女の子がどうしてぼくなんかにこだわるのだろうと宗近は考えた。それは前から考えている。そんなことを直接訊ねると嫌なことを言われるような気がするので訊ねない。
とにかく今は疲れている。早く風呂に入って眠りたい。明日は友理乃の葬儀があるが、それには出るつもりはない。さっき真央乃と別れた駅で、明日の夜、真央乃と待ち合わせの約束をしている。それまでは通常の仕事をこなすつもりでいる。会社の主だった人たちは葬儀に顔くらいは出すことだろう。
「ねえねえ、柴根さんのお姉さんって上手だった?」といきなり野卑なことを訊ねる。
「そんなことどうでもいいだろう。とにかくもう疲れたよ。寝るから切るよ」と言ったが、静美は平気な様子で、
「柴根さんのお姉さんって、年はいくつなの?」と訊ねてくる。
「きみには関係ないだろう」と宗近は不機嫌丸出しで答えた。
「以前会ったことあるけど、いかにも男好きのする顔って感じだったわ。きっと今も他に男がいるのよ。そんな女に忠誠を誓ったって仕方がないわよ」
「それがどうしたんだ」と宗近は冷たく突っ放した。
「要するに、どう考えても、あなたは柴根さんのお姉さんとは一緒になれないということ。親御さんや周囲の人たちがどうのこうのという前に、お姉さん自身があなたとのことは単なる遊びとしか思っていないもの」
「そんなことどうして分かる?」
「わたし、まだ十九歳だけど、今までいやというほど男が群がってきたから、恋愛の機微についてはよく知ってるの。柴根さんのお姉さんみたいなタイプは、男が一回はやりたいと思うタイプなのよ。顔はわたしより落ちるけど、体がきっといいのね。そんな女の人と一緒になったら大変よ。あっという間に友達に寝取られてしまう」
「変なこと言うなよ。きみだって男とたくさん遊んできたんだろう。きみの方が信用ならないよ」
「わたしはそう思われても別に構わないの。だってあなたといつまでも一緒なんて、堅いこと考えてないもの。わたしも自由だし、あなたも自由。でも今のところはあなたが欲しい。だからあなたとわたしはするの。その後は一応お付き合いをするのだけれど、二人とも自由なの。あなたは浮気をしたっていい。何ならそれからまた柴根さんのお姉さんと乳繰り合ってもいいわ。ね、自由でしょう? わたしは何も柴根さんのお姉さんとやるなとは言ってないのよ。わたしと一回してくれてお付き合いする仲になったら、取り敢えずわたしは満足なの。ね、簡単でしょう? あまり深く考えないで、わたしとやりましょうよ。どう、気持ちが楽になった?」
確かにそのように言われると気持ちは少し楽になる。静美の体を一度試してみたいという欲望も湧き起こる。同時に、彼女の言うようにはならないだろうという懸念もある。何しろ静美は二人で心中をしようと言い出した女だ。軽く一回やって、すぐにお互い自由にしようというタイプには見えない。