道々語る友理乃の話によると、彼女のお姉さんは二十四歳だそうだ。宗近よりも六つ年下だ。しかし問題を抱えた時には、年上、年下などとこだわってはいられない。問題を解決出来るならば、最年少の者がリーダーになってもいい。
友理乃とお姉さんが住んでいるのは、小奇麗なハイツだった。そこの一階の一室の前に立って、友理乃はドアベルを押した。そして大きな声で「わたし」と告げた。
間もなくドアが開いて、小柄な女の人が姿を現わした。外出する時に着るようなお洒落な格好をしている。仕事から帰ったばかりなのだろうか。それとも宗近が来るからちゃんとした服装にしているのだろうか。
宗近は女性と親しくなったことは全くといっていいほどないので、女性がプライベートでどんなことをしているかについての知識はなかった。
何故そんなことを考えたかというと、友理乃のお姉さんというのが、とてもキュートな女性だったからだ。一瞬見ただけで、胸がキュンとなるくらいの魅力があった。
お姉さんに惹きつけられたために、挨拶が遅れてしまった。友理乃は小さなため息を吐いた。それを聞いて宗近はドキリとした。彼がお姉さんに惹きつけられたことを察したのだ。これはまずい。
「この人が宗近さんよ」と友理乃は複雑な微笑みを浮かべながら、姉に宗近を紹介した。宗近はしっかり頭を下げて、
「夜分お邪魔をしてすみません。宗近頼造と申す者です。妹さんの友理乃さんとお付き合いをしております」と申し述べた。特に『お付き合いをしている』という所を強調して言った。
「そうですか。わたしは友理乃の姉で、真央乃といいます」とお姉さんはテキパキと自己紹介をした。
「どんな人が来るかと楽しみにしていました」などと言われたので、訳もなくドキリとした。
「今度は真面目そうな人でしょう?」と友理乃は姉に訊ねた。
「そうね。前の人よりははるかにいいわね」と真央乃はズバリと指摘した。前の人というのは成岡のことだろう。
三人は真央乃を先頭にして家の中に入った。家の中で一番広いダイニングキッチンに導かれた。四人がけのテーブルの一角に座らされて、真央乃が、
「ビールでも飲む?」と宗近に訊ねた。
「これから大事な話をするのに、ビールなんかよして」と友理乃が反対をした。
宗近はふと思い出した。成岡に連れて行かれた店でビールを飲んだことを。そして彼は夕食をまだ食べていない。
「大事な話をするから、ビールが一番いいのよ。それにわたしと宗近さんは初対面だから、まだ遠慮があるでしょう。その垣根を取るためにも、ビールが一番いいの」と言いながら、真央乃は宗近の様子を見ている。どの程度の男か、品定めをしているのだろうか。だとしたら自信がない。
友理乃は何も言わなかった。真央乃はそのまま冷蔵庫に近づいて、缶ビールを二本取り出した。
「誰と誰が飲むの?」と友理乃が訊ねた。
「わたしと宗近さんよ」
「どうして二人だけで飲むのよ。わたしだって飲みたいわ」と友理乃は憤慨していた。
「あなたはお酒なんか嫌いだと思ってた」と真央乃は横目で友理乃を見た。
「わたし、昨日、宗近さんと立ち飲み屋に行ったんだから」と自慢げに友理乃が叫んだ。
「お酒を飲んだの?」と姉は目を丸くした。
「いいえ、飲んでない。宗近さんが飲むそばでウーロン茶を飲んでた。でも今日は飲みたい。家なら酔っ払っても、眠ることが出来るんだもの」
「あなたに眠られたら、わたしと宗近さんと二人になるじゃない。それじゃあ話にならないじゃないの」と姉が言うと、妹は宗近の方に顔を向けて、
「その方がいいんじゃないの、宗近さんには」と言った。
さっきから気になっていたが、友理乃は宗近のことをよりさんとは呼んでくれなくなった。どうしたのだろうかと不安になる。