心中なんか大嫌い 第二十二回 | 中川忠の小説です。

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中編小説を掲載しています。方針を変更して、毎日の連載にします。

 道々語る友理乃の話によると、彼女のお姉さんは二十四歳だそうだ。宗近よりも六つ年下だ。しかし問題を抱えた時には、年上、年下などとこだわってはいられない。問題を解決出来るならば、最年少の者がリーダーになってもいい。

 友理乃とお姉さんが住んでいるのは、小奇麗なハイツだった。そこの一階の一室の前に立って、友理乃はドアベルを押した。そして大きな声で「わたし」と告げた。

 間もなくドアが開いて、小柄な女の人が姿を現わした。外出する時に着るようなお洒落な格好をしている。仕事から帰ったばかりなのだろうか。それとも宗近が来るからちゃんとした服装にしているのだろうか。

 宗近は女性と親しくなったことは全くといっていいほどないので、女性がプライベートでどんなことをしているかについての知識はなかった。

 何故そんなことを考えたかというと、友理乃のお姉さんというのが、とてもキュートな女性だったからだ。一瞬見ただけで、胸がキュンとなるくらいの魅力があった。

 お姉さんに惹きつけられたために、挨拶が遅れてしまった。友理乃は小さなため息を吐いた。それを聞いて宗近はドキリとした。彼がお姉さんに惹きつけられたことを察したのだ。これはまずい。

「この人が宗近さんよ」と友理乃は複雑な微笑みを浮かべながら、姉に宗近を紹介した。宗近はしっかり頭を下げて、

「夜分お邪魔をしてすみません。宗近頼造と申す者です。妹さんの友理乃さんとお付き合いをしております」と申し述べた。特に『お付き合いをしている』という所を強調して言った。

「そうですか。わたしは友理乃の姉で、真央乃といいます」とお姉さんはテキパキと自己紹介をした。

「どんな人が来るかと楽しみにしていました」などと言われたので、訳もなくドキリとした。

「今度は真面目そうな人でしょう?」と友理乃は姉に訊ねた。

「そうね。前の人よりははるかにいいわね」と真央乃はズバリと指摘した。前の人というのは成岡のことだろう。

 三人は真央乃を先頭にして家の中に入った。家の中で一番広いダイニングキッチンに導かれた。四人がけのテーブルの一角に座らされて、真央乃が、

「ビールでも飲む?」と宗近に訊ねた。

「これから大事な話をするのに、ビールなんかよして」と友理乃が反対をした。

 宗近はふと思い出した。成岡に連れて行かれた店でビールを飲んだことを。そして彼は夕食をまだ食べていない。

「大事な話をするから、ビールが一番いいのよ。それにわたしと宗近さんは初対面だから、まだ遠慮があるでしょう。その垣根を取るためにも、ビールが一番いいの」と言いながら、真央乃は宗近の様子を見ている。どの程度の男か、品定めをしているのだろうか。だとしたら自信がない。

 友理乃は何も言わなかった。真央乃はそのまま冷蔵庫に近づいて、缶ビールを二本取り出した。

「誰と誰が飲むの?」と友理乃が訊ねた。

「わたしと宗近さんよ」

「どうして二人だけで飲むのよ。わたしだって飲みたいわ」と友理乃は憤慨していた。

「あなたはお酒なんか嫌いだと思ってた」と真央乃は横目で友理乃を見た。

「わたし、昨日、宗近さんと立ち飲み屋に行ったんだから」と自慢げに友理乃が叫んだ。

「お酒を飲んだの?」と姉は目を丸くした。

「いいえ、飲んでない。宗近さんが飲むそばでウーロン茶を飲んでた。でも今日は飲みたい。家なら酔っ払っても、眠ることが出来るんだもの」

「あなたに眠られたら、わたしと宗近さんと二人になるじゃない。それじゃあ話にならないじゃないの」と姉が言うと、妹は宗近の方に顔を向けて、

「その方がいいんじゃないの、宗近さんには」と言った。

 さっきから気になっていたが、友理乃は宗近のことをよりさんとは呼んでくれなくなった。どうしたのだろうかと不安になる。