お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。
Amazon.co.jp
2007年に発売されたものです。
割と発売当初に買った覚えがあります。
読んで衝撃を受けて、いまだになんとなく、すっごく大雑把ながら内容を覚えていた。
何がきっかけか忘れたけど、ここ最近ずっと再読したいと思ってて
意を決して昨日の夜から読み始め、今日のお昼に読み終えた。
(意を決しないと読み切れない人間なもんで。。)
この本は、読み進めるとともに、章が変わるとともに、時代が過去へと遡っていく、という構成。
初めて読んだとき、ラストの章つまり主人公たちの一番若い時の章で号泣した。
何に涙したのかうる覚えだけど、
そもそもその時も何に泣いているのか、はっきり分かっていたわけじゃなかったと思うのだけど、
花と淳悟の関係の根本に触れて、なんだかもう悲しいのか何なのかよく分からないけどポロポロ泣いた。
今回逆から読んでみた。
結論から言うと、
結局最後に泣いてしまった。
今回の最後はつまり彼らの一番年を取った時。
あんなに、あんなにも求め合った二人の結末に、もうやるせなかった。
うん、そう。
やるせない、としかこの作品を言い表せなかった。
まるであの花と淳悟のように
その時完全にいわゆる世で言う両想いで、お互いがお互いを愛しても
その先というのはない。
ホントはあるのかもしれないけど、多分きっと普通に見つかってない。
そして、それに人は絶望する。
もう片時も離れたくなくて、いっそ一つになって生きていきたい、と思うくらいの感情。
あのころの彼らはほんとにそう思ってたと思う。
いつも一緒で、相手のものはすべて自分のもので、自分のものはすべて相手のもの。という世界にいた。
でも、一つになることは無理で、一つになるとしても、たかが一部分で、
ホントほんの一部分で、
一つになった瞬間があっても、ずっと一つではいられなくて。
ずっと二人でいると、世の中とどんどん乖離していって。
二人でいればそれを構わないと思えたときもあったけど、それも永遠ではなくて。
そうか、
永遠じゃない、がこの本のテーマなのかも。
今回読んでいろいろ発見があった。
まず、淳悟は花との永遠を期待してなかったこと。
それは無理だということを、最初から言っていた。
花は一方で、自分の感情は一生変わらない、と思い込んでいた。
花のそういう言動に、淳悟はなんていうのかな、期待してなかったというか、軽くあしらってた。
そして、花はあんなにも淳悟を想っていたのに、一番大人になった章では「淳悟に応じていた」と言っていたこと。
まるで自分の意思じゃないみたいな言い方だった。
過去の自分のことはちゃんと思い出すことは無理だからか、花は自分の都合いいように改変してた。
ちょっと私は花にショックを受けた。
あと、結婚しても花はやっぱり淳悟のことばかり想ってるということ。
花は途中から淳悟が嫌いになったわけじゃなくて、
淳悟と一緒の人生には先がなくて、もう別れなくちゃという意思で結婚してたこと。
私は最初読んだとき、途中で花は淳悟を完全に憎く思っていたように思っていた。
でも読み直したら愛憎という意味での嫌気があるだけだと分かった。
個人的には、どんなに先がなくても二人で生きてほしかったな。
たぶん美郎が現れなければ、そういった人が現れなければ、
二人で生きたかもしれないけど。
でも、そうじゃなくて強い意志で二人で居続けることを選んでほしかった。
(・・・・やっぱこの結末だからこその強い読後感なのかもだけど)