読み応えが、すごかった。
平野啓一郎さんの小説は、決して軽くない。
軽くないけれど、さらさらと読めてしまう。
だけどこの作品は、なかなか進まない。
ものすごく、先は気になる。
どうなるの?
これからどうなるの?
こころはそんな風に、どきどきざわざわして、早く読み進めたいのだけれど、なかなか進めない、一言一句読み落とすのが惜しいような、そんな作品でした。
ひとりの人間はひとりで形成されているわけではないという「分人」という一つのキーワード。
確かに人間は、みんな幾つもの分人がいる気がする。
友達といるときの自分、恋人といるときの自分、家族といるときの自分。
それぞれの自分はみんなちょっとずつ違うけれど、どれもみんな、自分。
その分人のうちのひとりでも決壊してしまったら、その人間は決壊してしまうのだろうか。
それとも、ひとりが決壊しても、他の分人でその人間を成り立たせているのだろうか。
人間の強い弱いは、ここで決まるのだろうか。
主人公は、すごいひとだと思う。
小さい頃から優秀で、その優秀さ故に母から奇妙に思われ、弟からは妬まれてきた。
母や弟のその思考は、表立って主人公に伝えられることはなかったけれど、なんとなく、彼は勘付いていたのだろうと思うのは、わたしの気のせいだろうか。
それでも彼は、家族を大切にしてきた。
大切にしてきたからこそ、父の鬱にいち早く気づけたのだろう。
なんとかしなければと思ったのだろう。
それによって、母と弟との溝がまた深まるのだけれど、彼は逃げなかった。
弟の殺害を疑われたときも、彼は逃げなかった。
ぎりぎりの、ほんとうにぎりぎりのところまで、ずっとがんばっていた。
家族を支え、自分を支え、自分を慕う者を支え、しんどかっただろう、つらかっただろう、なんでこんなことになったのだろう。
どうして、どうしてと、最後はもう、本に向かって問うばかり。
最初から伏線は張られていた。
それでも、どうして、どうして、と、感情が溢れて止まらない。