プロとはなんぞや | 10月の蝉

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たとえば、お笑い芸人なら事務所に所属して、芸人の仕事(劇場出演とかテレビ出演とか)をしていたらプロだと言えるんじゃないかと思うのだ。

仕事があるかどうかはまた別問題として。生活費を稼ぐために他の仕事をしていたとしても、「職業は?」と聞かれたら「芸人です」って答えると思う。

だから「辞める」という選択肢が存在する。事務所を辞めて、芸人としての行動をしなくなる。

いわゆる「普通の仕事」をして生きていくわけだ。

 

じゃあ、演劇はどうなんだろう。

演劇にはいろんな仕事がある。いちばん目立つのはやっぱり役者なんだけど、そのほかにも脚本家とか演出家とか、舞台美術、音響、照明、衣装、制作、劇場スタッフなどたくさんあるのだ。

役者以外は「裏方」と呼ばれることも多いが、裏方の仕事は会社組織になってることも多くて、本業と呼べる場合もある。

役者はどうか。これがいちばん定義が難しいように思う。

プロの役者って、どういう条件を満たしていたら言えるんだろうか。

いちばん大きいのはやはり金銭面なんだろうな。ちゃんとギャラが出て、それで生活していける状態。昨今だと、テレビで顔と名前が売れたら一人前の役者になったと見なされるんじゃなかろうか。

舞台俳優はどうだろう。劇団に所属しているとして、その劇団がプロかどうかはどうやって判断するのかな。やっぱりギャラだろうか。

仕事と呼べるのはそこに金銭的価値が発生するからだろうと思う。

 

日本にプロの劇団がどれくらいあるのか私は知らない。

たぶん、劇団四季とか、劇団たんぽぽとか、だろうか。

歌舞伎っていうのはちょっとジャンルが違うような気がする。歌舞伎とか能、狂言の世界は、伝統芸能というくくりに入っていて、世襲制がメインのようだし、あれはもう家業といえるだろう。だから、それ以外の人がやったらそれはアマチュアなのだ。

 

私が気になっているのは、地方で社会人劇団として活動している人たちのことだ。

そういう人たちはたいてい、別に生業を持っていて、生業以外の時間を演劇に当てている。

だから「今日は仕事が長引いたので稽古を休みます」という状況が発生する。

これはやっぱり、アマチュアということなんだろうなと思う。

 

ところが。

アマチュア劇団が公演を打つとき、非常によく言われるのが「たとえアマチュア演劇だとしても、お客様からお金をいただいたらそれはプロです。だからプロ意識を持ってやりましょう」ということ。

無料公演もないわけじゃないし、最近だと投げ銭制をとることもあるけど、だいたいは有料のチケットを販売する。金額は1000円~3000円くらいが多い。

無料にすると価値が下がるとか、演者のモチベーションが下がるという意見もあるんだけど、だいたいは諸経費をまかなうために有料にする。

1本芝居を作るには実に多くのお金が必要になる。単純に考えても、公演日までの稽古場代、公演会場を借りるお金、音響照明をよそに依頼するならそのお金、チラシやチケットの製作費、衣装、小道具、大道具の製作費などが必要になる。

ここに、出演者のギャラは含まれないのだ。なんなら、出演者が参加費を払っていたりする。

だってアマチュアだもんね。趣味なんだもんね。そういう感覚。

 

人に見せるものを作るからには、それなりのクオリティーは必要だし、チケット代をとるならなおさらだと私も思う。そういう意味では「プロ意識」は必要だろう。

でもその「プロ意識」はむしろ「責任」なんじゃないかと思うのだ。

ぶっちゃけ、ギャラも出ないのにプロ扱いしないでくれよ、と思う。そういうところだけプロという言葉を使うのは卑怯なんじゃないかとすら思うのだ。

他人様に見せて大丈夫なものを作るという責任感は必要なんだけども。

 

私は、ここ10年ほど人生のほとんどの時間を演劇に費やしてきた。舞台にもたくさん立たせてもらった。自分なりに芝居について勉強もしている。

それでも自分のことをプロだとは思えない。そもそもギャラが発生していないし。

しょせんアマチュアだよなと思っている。でもじゃあ、どうなったらプロと言えるんだろうと考えるとわからなくなる。

私は主婦だし(なんなら専業主婦だ。絶滅危惧種)、自分でお金を稼いでいるわけじゃない。

とすると、私がやってることはあくまでも趣味の範疇ということになる。

それが悪いと思ってるわけじゃないんだけど、公演のときに「お客様から時間とお金をいただいている以上プロなんだよ」と言われると、微妙な違和感が残る。

確かにお金と時間はいただいているけど、でもなあって感じ。

もちろん見ていただく以上はベストを尽くしているつもりだ。それでもなお違和感は残る。

 

テレビや舞台で活躍している有名な俳優さんたちの世界と、地方のアマチュア演劇人では住んでいる世界が違うんだろうなと思う。良い悪いじゃなくて、ただ違う。

 

お金を稼げること。その一点だけでプロとアマチュアは区切られているのかなあ。

あ、でも、「仕事のないお笑い芸人」っていうジャンルはあるな。「仕事のない俳優」もいる。

プロとアマチュアの違いはいったいどこにあるんだろう。