浮き沈み、とはよく言ったもので。浮きっぱなしっていうのも危なっかしいのだから、たまには沈むのもよいかもしれぬ。沈みっぱなしだと腐ってしまうから、またなんとかして浮き上がらねばなるまい。
本屋へ行ったら、恩田陸さんの新刊が出ていた。
「構想・執筆10年、待望のバレエ小説」という帯を見て即買い。
「spring」というタイトル。一人の天才のお話である。
まだ途中なんだが、例によって圧倒されている。
同じ恩田陸さんの「チョコレート・コスモス」は演劇の天才の話だった。
これは、バレエの天才の話。なんとなく似た雰囲気がある。
まったくもっておこがましいことではあるのだが、この手の天才の話を読むといつも打ちのめされる。自分がそういう天才でないことに。どうしようもなく凡人であることが哀しくてやりきれなくなる。
こんな自分が演劇をやってるなんて、何の意味もないじゃないか、と思ってしまう。
まあ、それすらも傲慢な考えなんだけども。
今日は「夜明けまで踊ろう」の稽古がある。
あと1ヶ月か。学生やプロのように毎日稽古できるわけじゃないのがアマチュア演劇のつらいところだが、稽古場にいないときでもずっと心の内を占めている。
ようやくセリフが実体を持って聞こえてきた感じがする。日常生活でもふとセリフが口をついて出てくるようになると、改めてその意味を考えられるようになる。
何気なく言ってたけど、このセリフはどうして出てきたんだろうとか、何を思って今これを言うんだろうとか。自分で書いた脚本ではあるが、身体化して初めて気がつくこともたくさんある。
役作りって、結局その役の背景をどれだけ具体的に想像できるかってことなのかもしれない。
この切り取られた時間の前に、いったい何があったのか。どういう経験があってこの発言に至ったのか。それを考えたらセリフはぐっと身近になると思う。
私はたぶん、そういう芝居が好きなのだ。
真面目にやってるからこそ生まれるおかしみとか、期せずして生まれたおかしさとか。
そういうものを目指したい。