山陰本線に揺られて | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

今回、息子の受験に同行することで思いがけず山陰線の電車に乗ることができました。

まー、私の人生で山陰線の電車に乗るようなことが起こるとは夢にも思いませんでしたが、人生って何があるかわかりませんね。

 

日本史や地理をもっと勉強しておけばよかったなーとつくづく思いました。

車窓を流れる風景の持つ意味が今ひとつわからなかったのが悔やまれます。

ただただ、美しい風景に見とれるばかりで。

 

京都駅で山陰線のホームへ降りたときに、知らずにコインロッカーの並ぶ通路を歩いたんですね。

そしたら、こんな表示を見かけました。

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0番線。

なんと魅力的な響きなんでしょうか。

通常は使用されていないホームのようでしたが、そのときは向こう側を「桃太郎」が牽引する貨物列車が通り過ぎていきました。

そういえば息子は小さい頃、貨物列車を眺めるのがたいそう好きでした。

私は先頭の機関車が好きなのかと思っていたんですが(だから「ほら、桃太郎だよ~」なんて指さして教えてました)、よく聞いてみると彼は、貨物の部分、つまりコンテナが好きだったそうで。

だから電車のオモチャでもコンテナばっかり選んで遊んでたんだなー。人の好みとはさまざまであります。

 

コロナの影響で本数が減らされていたことを知らず、予定より1時間も長くホームで電車を待つはめになりましたが、駅弁を食べたりしてのんびり時間を過ごすことができました。

乗車したのは、「特急こうのとり」。

指定席の列車にはゆかりの武将やらお城やらの絵が描かれていました。

そのひとつがこれ。

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今、劇団で稽古している芝居に、「明智光秀(あけちこうしゅう)」という男の子が登場します。私が演じる役なので、「おお、あけっち君じゃないか!」と若干興奮してしまいました。

よく考えてみればいるのは当たり前なんですよね。なにしろ福知山城の城主なのですから。

あのあたりは歴史的な土地なのです。ここで、日本史をちゃんと勉強しなかったことを痛切に悔やみました。わかってたらもっと楽しめたのになあ。勉強ってこういうときのためにするものなんですね。

 

京都を出発した「こうのとり」は、ゴトゴトと走って行きます。

京都駅から西へ進むので、やがて嵯峨野、嵐山のほうへ到達します。

電車の窓から東映太秦映画村が見えたときは、一人で興奮しておりました。

エヴァンゲリオンの頭部?が設置されてるのが見えましたよ。

嵯峨野(嵐山?)のトロッコ列車も見かけました。ああ、そういうところなんだなあと感慨にふけっているとやがてトンネルに突入。トンネルを抜けるといきなり色鮮やかな渓谷が姿を現しました。

おお!と思う間もなくまたトンネル。トンネルと抜けると渓谷。またトンネル。渓谷。

それはそれは見事な絵を、かなり高いところから見下ろす形で電車は走っていきました。

 

山を抜けたら亀岡。

いきなり平地が現れ、現代の町並みが広がります。この落差たるや。

あとで地図で確かめたところ、亀岡はまだまだ京都の街中からほど近いところではあったんですね。

山を抜けるので、心理的な距離はけっこうあった気がしましたが。

 

そこから電車は北に進路をとります。

園部から綾部。このあたりからだんだん風景が山の中に変わっていきました。

綾部も歴史のある街なんですね。これまた不勉強を悔やむところであります。

綾部の次が福知山。

福知山城が車窓からも見えました。街を見下ろしてる感じのお城なんですね。

いろいろと興味深いところがたくさんあるようで、いつか行ってみたいなあなんて思ってます。

 

福知山からはまた山中を走ります。

電車が走っているところだからなのか、わりと「人里離れた」感があるんですよね。

茫漠とした土地にぽつんぽつんと家がある感じ。

その家も、特徴的な屋根を抱いた母屋といくつかの建物がひとつになった「大きな農家」のような作りで、そういう家がぽつり、ぽつり、と見えるわけです。

道も細くうねっていて、一応アスファルト舗装はされているようにも見えましたが、昔からの小道、っていう感じ。土や草の見える割合がものすごく高いので、一瞬タイムスリップしたかしら、と思ってしまうような風景でした。なぜか郷愁を覚える風景でしたね。

真っ黒い瓦屋根の家が多くて、晩秋の枯れた草木によくなじむ色合いだなあと思いました。

違う季節に来たらまた違う感想を持つのでしょう。

 

昨日おとといと「城崎にて」という記事を書いたように、豊岡駅から普通列車に乗って城崎温泉へ向かいました。普通列車が1時間に1本しかないっていうのはちょっと驚き。乗り損ねたら大変ですわ。

帰りの電車の時間はしっかり確認しておきました。

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向こうのホームに見える渋いオレンジ色の電車が普通列車。

身延線や御殿場線で見かける電車のように、降りるときはボタンを押してドアを開けるシステムです。

自動では開かないんだなあ。ワンマンカーでしたよ。

カーブにさしかかると鋭い警笛が鳴り響く電車。趣がありましたねえ。

 

帰りに乗った電車は、「丹後の海」という名前の列車。「特急はしだて」でございました。

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なんとも美しいブルーの車体で、車内も実におしゃれ。

座席の窓がこんな感じ。

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かかっている額縁の中身はこちら。

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座席ごとに違う絵がかかっているようでしたよ。

 

そして天井はこんな模様。

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これ、どこの家紋でしたっけ。ううう、不勉強が悔やまれる……

 

車内にフリースペースが設置されておりまして、ここもカーブを描いたテーブルがあっておしゃれ。

ああ、ここに座ってのんびり窓の外を眺めていたいと思いましたね。

 

わたしはさほど「鉄オタ」ではないと思っておりますが、息子が小さい頃に電車が好きだったこともあり、今でも新幹線やら、意匠を凝らした電車を見かけるとワクワクします。

山陰本線の特急はかなりよかったです。写真を撮っている人がたくさんいたのもむべなるかな。

 

一緒に乗っていた息子はさすが最近の子だけあってか、ずっとスマホで漫画を読んだり、YouTubeを見たりしておりました。たまに私が腕をつついて外に注意を向けると、その時だけはちらっと外の景色に目をやり、「ああ」とか「うん、すごいね」なんて言ってましたが、なんとももったいないことだと思いました。でもまあ、若いときってそんなものかも。私だって車窓の風景に興味を持つようになったのはだいぶ年を重ねてからでした。紅葉に反応してくれるだけマシなのかもなあ。

 

受験の付き添いだったのに、気づいたらまるで自分の観光旅行のようになってしまっておりました。

私ができることなんて何もないので、負担にならないように勝手に遊んでいようと思っていたのですが、いつの間にかそんな目的すら忘れて、電車の窓に張り付いて「おー」とか「すごーい」とか、まるでこっちが子どもみたいな有様でした。そういう意味では楽しい道行きでしたね。

めったに乗れない電車にも乗れてとても楽しかったです。

あとは、息子にいい結果が出ることを祈るのみ。