珍しく夫が、息子氏は就職とかどうするつもりなのかな、と聞いてきた。
ほほー。一応気になったりはするのね。
息子は今のところ、「舞台俳優になりたい」という夢を持っている。
大学もそのためのところを志望してる。
その大学は県外で(けっこう遠いところ)、私は「たぶん彼はもう家には戻らないだろうなあ」と思っている。
しかし、夫は、「県内にもそういう場所があるらしいじゃん。だったらそこに就職するっていう手もあるんだよね」という。
正直、うーんそこからかあ、っていう感じ。
説明するのも難しいんだよね。確かにあるけど、就職ってなるとどうなんだろう。
そもそも、「舞台俳優」って「就職」という概念とはほど遠いところにあるよね、本邦では。
言ってみれば「個人事業主」だし、そもそもオファーがないと成立しない仕事。
どこかの劇団とか事務所に所属するという道はあるにしても、「就職する」という感じじゃない。
鴻上さんは「役者っていうのは失業を前提とした仕事です」って言ってるし。
だから、役者になれるかどうか、続けていけるかどうか、というのはわからない。
舞台関係の仕事(照明とか音響とか制作とか)に就くという道もないわけじゃないけど、今のところ息子がやりたいのは「役者」なんだよねえ。
私は全面的に応援してるので、なんとかがんばって夢を叶えてほしいと思ってる。
私は子どもの頃、そうだなあ、中学生くらいまでは、「作家になりたい」と思っていた。
本を読むのが好きで、自分でもこんなふうに物語を生み出したいものだと思っていたから。
それをうっかり親に言ってしまって、そのときは「そうなんだ~」くらいで軽く受け止められ、「それもいいかもね」とかなんとか言われてた。
でも、高校生になって進路が現実問題になってきたとき、母がしごく当然のように「法学部とかに行って資格をとれば結婚しなくてもやっていけるんじゃないの」と言い出した。
そうそう、私は「結婚なんてしたくない」とも言っていたから。
作家になる夢はほんとに単なる夢として聞き流されてて、「結婚しない」という願望はそこそこマジで受け止めていたらしい。
男に食わせてもらう気がないなら自分で稼いで食っていかねばならぬ→そのためには女でも稼げる職に就く必要がある→検事とかよさげじゃない?公務員だし。
みたいな思考経路だったらしい。
私も、「そうかなあ。そうかも。だって作家はなれるかどうかわからないもんね」とか思って、進路をそっちへ切り替えてしまった。
人生で後悔してることがあるとすればそこだ。
どうして自分の気持ちを大事にしなかったんだろう。
そりゃ確かに不安だったよ。小説を書きたいと思い、多少は書いたりもしてたけど、ものになるかどうかなんてわかんないもんね。
だから、親が示した道に安易に乗っかってしまった。
(ついでにいうと、しないはずだった結婚も結局してしまった)
親としては、子どもの将来を案じていろいろ考えてくれてたんだろうなとは思う。
もともと指図がましい人ではあったので、「ワタシが考えた最強の進路」みたいな感じで、とうてい逆らえる雰囲気じゃなかった。私自身もあやふやでぼんやりしてたし。
いずれは忘れてしまう夢なんだろうな、とかも思ってた。
でも、そういうことじゃなかったんだな。
目をそらした夢はいつまでたってもそこにあって、ふとした瞬間に存在を主張する。
諦めようと思って諦めきれなくて、もうやめようと思ってもやめられない。
だったら最初から自分で挑戦して現実を知ればよかった。そしたらもうちょっとすっきり諦められたかもしれないのに。いまだにジタバタしてる。たぶん死ぬまでジタバタあがくんだろう。
自分がそうだったから、どうしても息子の夢を潰す気にはなれないのだ。
かなうかどうかはわからない。彼の気持ちそのものが変わっていくのかもしれない。
それでも、今はそうしたいと思っているのだから、本気でそれを後押ししたいと思うのだ。
親の都合で地元に帰ってきてほしいだとか、親が安心できるところに就職してほしい、とか、そういうお為ごかしはしたくない。
子どもは、「親のしあわせ」のために生きてるわけじゃないのだ。
厳しい道だろうけど、自分で切り開いていってほしいなあと思う。