エンタメは命を救う | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

どうやら公開延期になっていたらしい『騙し絵の牙』、さっそく観てきました。

 

原作小説は、月刊誌『ダ・ヴィンチ』に連載されていました。

あれはまだ、私がこの雑誌を定期購入していたころではなかったかしら。

ふーん、大泉洋さんにあて書きしてるんだぁ、なんて思って、でも実は連載時は読んでいなかったのでした。

 

『ダ・ヴィンチ』という雑誌についてはいろいろ思うところがありまして。

読み始めたころは、とにかく中身の文芸量が半端なかった記憶があります。

いや、たくさんの書籍を紹介してくれるのはすごくうれしかったんですが、読み続けるうちになんだか押しつぶされそうな気持ちになってきたのです。

ちょうどそのころ、私のメンタルがへたってきていたということもあり、『ダ・ヴィンチ』を見るとどこからか「どうしてお前は何も書いていないのだ」という叱責というか圧迫の声が聞こえるようになったんですね(けっこう病んでたなこれ)。

それでしばらく購読をやめていたのですが、あるときふと本屋でかの誌を見かけたときになんだか感じが変わったなと思ったのです。

なんというか、前より自由で突出してて、なんでもあり、な感じがしたんですね。

そこからまた、とびとびですが購読するようになりました。面白いとき、つまり私の好みにハマった時の充実度が半端ないのです。それはきっと、ほかのジャンルの人にとってもそうだったんじゃないのかなあ。

 

そんななかで、塩田武士さんの『騙し絵の牙』が連載されていたのでした。

 

結局まだ原作読んでないんですよね。その状態で映画を観てきました。

 

まー、面白かった。とにかく面白くて一瞬たりとも目が離せない作品でした。

いちばんのツボは國村隼さんの長髪ですかね。めっちゃ似合ってるんですが、どうしても筒井康隆先生を思い出してしまうビジュアル。この二階堂という作家のキャラクターが、「大作家あるある」に見えてとても興味深かったです。カリカチュアライズされてるとは思うんですけどね。でも作家のメンタリティーってあんな感じなんだろうな、と思わせてくれる感じがとてもよかったです。

 

映画の予告で「この男に騙されるな」ってしきりに言ってたので、いったいどこで騙されるんだろうと身構えながら観てたんですが、私が鈍いのか、あまりにも素直にそのまま受け入れすぎたのか、あんまり騙された気がしませんでした。いや、あれくらいの策は練るでしょ、とか思ってて。

大泉洋さんが、あんまり見たことのないキャラクターだったのは素敵だったなあ。

 

帰りに本屋へ寄って原作を手に取ってみたんですが、たまたま開いたページが速水(大泉さんが演じた主人公)のプライベートのシーンだったんですね。しかも、妻から離婚を言いだされているという、けっこうシリアスな場面。そこでの速水の言葉にちょっとがっかりしてしまったので、しばらく原作を読むのはやめておこうと思ってしまいました。

映画はかなり大胆に書き換えてあったようで、速水のプライベートは一切描かれず、社内での出来事に絞られています。それがとても心地よかったんですね。色恋が絡まなかったのが非常に清々しかったのです。そういう意味でも非常に面白く楽しめた映画でした。もう一回観てもいいなあって感じ。

(『ブレイブ』もなんとなくもう一度観たいような気がしています)

 

今日は暖かくて、あちこちで桜が咲き始めています。車を走らせながらお花見してきました。

 

前述したとおり、映画を観たあと本屋へ行ったんですね。特に予定はなかったのですが、なぜか今日は行かなくてはならないという気持ちが湧いてきてて。

で、やっぱりこういうときは行って正解なんですね。

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宮部みゆきさんの三島屋シリーズ第7弾が出ているじゃありませんか!

呼んでくれてたんだなあ。

そして、朝井リョウさんの『正欲』もゲットいたしました。朝井リョウさんはねえ、読むたびに心がザクザクに傷ついて、痛くて苦しくてたまらなくなるのに、読むのをやめられないんですわ。

 

こんなふうにエンタメがあるかぎり、なんとか一日一日を生き延びていけるような気がします。

劇団の活動もゆるゆると始まり、まだ公演日は決められないものの、次回作の稽古が始まりました。

私も役をもらいましたよ。もうやめようと思ってたはずなのに、やっぱり台本を読むと心が躍るんですよね。もうちょっとがんばって生きていくかあ、と、風に散る桜の花びらを見ながら思ったのでした。

……っていうのは、かっこつけすぎですな(笑)