足元を見る | 10月の蝉

10月の蝉

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芝居を観るときにけっこう気になること。それは足元。

役者が何を履いているかってことがけっこう気になる。

プロの舞台だとそういうことはまずないんだけど、アマチュアだと時々「それってどうなの?」と思うことがある。

いろんな事情があるんだと思うんだけど、明らかに室内のシーンなのに外靴を履いたままとか、逆に明らかに屋外のシーンなのに靴履いてないとか。

まあ、めったにないことではあるんだけど、たまにそういうことがあるといろいろ考えてしまう。

また、自分が出演する芝居でも、衣装を決めるときに「靴はどうしますか」と聞くと、「あ、考えてなかった。別になんでもいいんじゃない?」と言われたり、時には「履き替える暇がないし、袖が混乱するから履きっぱなし(あるいは履かないまま)でいいよ」てなことを言われることもある。

これはまあ、芝居のスタイルにも関係してくることで、場面転換が早いとか、くっきりシーンを分けられないタイプの芝居だと、いちいち履物を着脱するのがめんどうになってしまうこともあるのだ。

ちゃんとセットを組んで、室内と屋外がわけられているような芝居なら、靴の着脱も芝居の流れに組み込むことができるんだけど、無対象、つまりちゃんとしたセットが組めなくて、平台とか箱足なんかで象徴的なセットを組んだりすると、「まあ、別にいいか」って感じになりやすい。

外国の話ならねえ。室内でも靴は履いてるからそういうことをいちいち考えなくてもいいんだけど、日本の話の場合、基本的に履物は玄関で脱ぐという様式だから、どうしても「履いてるか、履いてないか」っていう問題が生じてくるわけだ。

 

こういうことが全然気にならない人もいるんだろうけど、私はどうしても気になってしまう。整合性がとれないじゃないか、と思ってしまって、芝居に身が入らない。

靴も衣装の一部だ。芝居で使う衣装は、その芝居の世界観や役の性格を表すようなものを使う。一目見て「どういう人か」っていうことが伝わらないといけない。だからみんな衣装にもこだわるわけで。

音響や照明にこだわるのも同じ理由だと思う。芝居は役者が舞台上でセリフを言って動き回るだけのものじゃない。音響や照明、セット、衣装や小道具などのすべてが統合されて一つの世界を作り上げるものだと思ってる。

だから細かいところにもできるかぎりこだわりたいと思ってしまうんだよなあ。

 

私は今のように自分が芝居に深くかかわるまでは、舞台を観てても音響や照明、衣装のことはあまり印象に残らなかった。逆に言えば、ぴったりと世界観にハマっているから気にならなかったということだ。

それでも細かい違和感を覚えたことはある。「なんで『それ』なの?」っていうチョイス。

自分でやるようになってわかった。あれは、「いいよ、適当で。たぶんお客さんは気にならないから」ってことで通ってしまった結果なんだろうなと。

ほとんどの人は確かに気にならないし、気づきもしないかもしれない。でも私は、かえってそういうところに目が行ってしまうのだ。

他にも「舞台の隅で、セリフがないためにぼーっと素になってしまっている役者」なんてのも気になるし、「全員ダンスのシーンで、後列端っこの人がちょっと手を抜いてしまってる感じ」なんてのも気になる。

要するに私は細かいところが気になるタチなんだな。

 

例として引き合いに出すのも恐れ多いんだけど、トム・クルーズの「ミッションインポッシブル」の特典映像でメイキングを観て、やっぱり一流の人は違うんだなと思った。それは、「そこまでやらなくてもいいんじゃないか?」ってとこまで細かく追求していく姿。「観客に嘘を見せたくない。観客は嘘を見抜くから」という理由でとにかく本物にこだわる。たとえそれが画面に明瞭に反映されていないとしても、そこに本物があるという事実が発する臨場感はやはり映画を本物にしていく。

プロの、一流の人たちの舞台もそうなんだと思う(思いたい)。細かいところまで作りこんで世界を作る。その中で芝居をするからそれが本物になるんじゃなかろうか。

 

アマチュアだからね、しょうがないと思うよ。予算もないし、技術もない。

でも、「たぶんお客さんにはわからないよ。気にしないよ」って、作る側が言うのはなあ。

技術が足りなくてできないならそれはまあしょうがない。

でも、役者やスタッフの未熟を理由にやらないっていうのはとても残念なことだと思う。

うーん、そこがアマチュアの難しいところなんだろうな。モチベーションにも差があるし、技術にも差がありすぎるからね。どこまで要求していいものかは判断が難しいかもしれない。

 

まあ、靴問題は、日本が玄関で靴を脱いで室内に入るっていう文化があるせいだよな。だからひっかかってしまうのだよね。