今だから | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

中高生対象のワークショップとか舞台の話を聞くと、いいなあと思います。

若いうちにいろんなことができる、若いからいろんなことができる、そんなふうに思うんですね。

体も心も柔軟で、たくさんののびしろがある。そんなときに、さまざまな経験を積むことができる。可能性の多様さに羨望を覚えます。

 

でも、もし私が今その年齢だったら、たぶんなにもできないんだろうなとも思うのです。

できない、というか、踏み出せないんじゃないかなあ。

たとえば、超常現象が起こって10代に戻れたとしても、そういう世界に足を踏み入れることはできないんじゃないかと思うのです。

なぜかというと、「将来」のことを考えてしまうから。

 

若いときは、「将来」が茫漠と広がっていてとても不安でした。

これからまだ何年も人生が続いていくとしたら、「今、これをやること」がいったいどういう影響を及ぼすだろうかとか、そんなことが気になって仕方なかったのです。

だから、若くて時間も可能性もたくさんあるはずの時期には却って何もすることができませんでした。

 

今、この年になってあれこれ手を出し始めたのは、もう「将来のこと」を気にしなくてもいいのだ、と思いきることができたからです。

ダンスや芝居に関わったとしても、もうそれを職業としようとか考えなくてもいい。

ただ、好きだから、でやっていくことができるのです。

下手でも、上達しなくても、成功しなくてもいい。

そうなってはじめて、安心していろんなことを始めるようになったのです。

 

とても、臆病で後ろ向きな考えだなと思います。言い訳ばっかりのような気もする。

でも、気になるワークショップを見つけたとき、気になるカルチャー教室を見つけたとき、「よし、やってみよう」と思えるのは、「もうこの先あんまり時間がない」とか、「今これをやったからといって、将来どうするかなんて考えなくてもいい」という状況があるから、というのも確かなんですね。

 

今、芝居の稽古をしていて、稽古が進めば進むほど考えることは多くなります。奥の深い世界ですから、やろうと思えば、追求していくべきことはたくさんあります。

もちろん、自分の演技や芝居についていつも考えてはいますが、どこか逃げ道があるんですね。それは、気が楽なことでもあり、反面もどかしく、ふがいないところでもあります。

 

なんにしても、「今だから」いろんなことに挑戦していけるんだな、と、そんなことを思っています。