プロとアマチュアの差 | 10月の蝉

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取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

今日、ミュージカルの練習風景を眺めながら、「プロとアマの違い」について考えました。

アマチュア劇団の芝居やミュージカルは、実はあまり積極的に見たいとは思わないんですが、それはいったいなぜなんだろうと考えてみたのです。

ミュージカルの場合、芝居だけじゃなく、歌やダンスが入りますよね。
で、歌はまあ、たいていそんなに悪くはないことが多いんです。
ソロは少ないし、大勢で歌えばそれなりに聞けるものになることが多いし、ハイレベルの巧拙についてはよくわからないので、気にしないでいられるのです。
多少下手でも、ご愛嬌で済ませることもできるし。そこがアマチュアのいいところでもあります。

しかし、ダンスはちょっと違うんですね。
芝居にも通じるものがありますが、これは身体表現の分野です。
体の動かし方が、ストレートに表面に出ます。なので、基礎、基本がきっちり押さえられてないと、大変見苦しい表現になることがあるのです。

アマチュア劇団の芝居でも、劇中にダンスが用いられることがよくあります。たぶん流行もあるんでしょう。
これが、キレのあるダンスなら効果はばっちりなんですが、どうも中途半端なことが多いんですよねえ。

今まで踊ったことのない人は、ダンスというと、まずは振付のことを考えます。
手をどう動かすか、足をどう動かすか。どういうステップなのかなどなど。
とにかく順番を覚えて、そのとおりに手足を動かそうとします。
練習のときには、とにかく順番通りに動くことを目的にするんですね。
その中で、「うまく踊れない」という悩みが出てくるわけです。

私も、初めてミュージカルに参加して、ダンスのレッスンを始めたころはそんなふうに思っていました。
ステップひとつとっても、足が思うように動かない。手の振りをつけると動きがちぐはぐになる。ターンしようとすると体がぐらつく。足は上がらない。
決められた振り付けで踊ろうとしても、なんか違う感じになっていました。

なにが違うんだろう、何がいけないんだろう、と思って、しばらくバレエ教室に通いました。
そこで、初めて、ダンスの基礎を教わったのです。
ダンスの基礎は、正しい姿勢とその維持につきます。
まっすぐ立つ、という、しごく単純な動きでも、どこに意識をおくか、どの筋肉を使うかなどをきちんと自覚することで、劇的に変わります。
手を横に伸ばす、という動きだって、無自覚に手を伸ばしたら、大抵の人は上にあがるか、下に下がってしまうし、指先にいたっては、あえて意識しないとまっすく伸びません。

とにかく「意識すること」それが基本でした。
体幹をまっすく保持するためには、無駄な緊張をとって、なおかつ必要な筋肉を使わなくてはいけません。そこができてようやく、ステップを踏むとか、手の動きをつける、という段階に進むわけです。

そういう基礎を覚えると、いろんな振り付けも楽に覚えられるようになるんですね。

しかし、アマチュア劇団のダンスを見ると、いつも残念な気持ちになるのです。
振り付けはあってるんだけど、なんか違うふうに見えてしまう人がほとんど。
その「なんか違う」の「なんか」というのは、おそらくそういう基礎的な体の使い方なのだと思います。
微妙に猫背、微妙に体幹がゆるんでいる、体の先端まで意識がいってないので手先、足先がだらっとしている、などがそうです。
本人は一生懸命やってるはずなんですが、結果としてクオリティの低いダンスになってしまっているということが多くて、私はいつも「どうしてもっと練習しないんだろう」と思ってしまうんですね。

でも、今日、ミュージカルの練習を見ていて、わかりました。
あれは、練習してないんじゃなくて、どこを気をつけたらいいのかわかっていないのです。
基礎に時間を割く余裕が、アマチュアの場合は、ないんですね。
プロなら、それが仕事でもあるので、十分時間をかけることができます。それに専念できるわけだから、きちんと基礎から作りこんで、その上で振り付けをつけていくことになります。
でもアマチュアは、たとえば週に1度、3時間程度の練習時間しかとれないなんてこともざらにあるので、その貴重な練習時間に延々と基礎をやっている余裕がないわけです。
いきおい、「あとは各自でやっておいて」という話になるんですが、これまたふだんの生活ではなかなかそこまで手が回らないのです。



作品のクオリティをどのラインまで求めるか、というのは実に悩ましい問題です。
そこがプロとアマチュアの違いでしょう。
プロなら、どこまでも上を目指すべきだし、やってる人たちだって低いレベルで満足してはいないでしょう。
でも、アマチュアの場合、そこに甘えが忍び込む余地がたくさんあります。
「プロじゃないんだから」「そこまでやらなくても」「というか、アマチュアにそこまで求めなくてもいいでしょ」……。
結果的に届かなかったとしても、私は上を目指すべきだと思うんですよ。少なくともお金をとって見せようというなら。

でも、実際には、それを指摘しても改善するための時間がない。あるいは、その人にそういう意欲がない。
その結果、アマチュア劇団のダンスは、なんとなく残念な出来栄えになることが多いんだと思います。

いつも、ジレンマを感じるんですよね。
もっと基礎をきちんと固めてやればいいのに、でもやるヒマないんだろうな、あるいは、そこまでやる必要性を感じてないんだろうなって。

ま、私もあんまり偉そうなことは言えないんですけどね(笑)。
できてるわけじゃないんで。
でも、目標は上の方に置きたいんですよ。
ダンスをするならきちんと基礎を固めたいし、芝居をするなら基本を押さえたい。
ここでいう基礎とか基本って、ほんとに初歩のことです。
まっすぐ立つとか、緊張と緩和を使い分けるとか。無理なく呼吸するとか、無理無駄なく四肢を動かすとか、そういうこと。

こういうことって、他の人に言ってもいいことなのかなあ。
それとも、各自で気づいていくしかないことなんですかね。
今日はちょっと見かねてアドバイスしてしまったんですが、余計なことをしたかなと後悔もしています。そのへんの兼ね合いもまた難しいんですよねえ。