されど青春の日々~北岡高校物語~ | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

「それは学校との対決ってことですよね」

 吉田の言葉にみどりはたじろいだ。「対決って、そんな・・・」

「結果的にそうこうことになりますよ。要は今の校則に不満だっていうことだから。校則を変えてくれっていうところまで話が行ってもおかしくない」

「おおげさじゃないか?」松本がとりなすように言う。「別にアンケートをとっただけだし、そこまで要求してるわけじゃないだろう」

「なんにしても、学校側としては面白くない展開ですよね」

「まあ、そうだよね」みどりはしぶしぶ同意した。

「ちょっと、待って」谷村が割って入った。「なんか違う方向へ話が広がってるみたいだけど。そういう、学生運動みたいなノリとは違う面で、今回のことを記事にするのはむずかしいと思うんだ」

 えっという顔で、みどりたちは谷村を見た。「なんですか、それ」

谷村はちらっと景子のほうを見た。景子は小さくうなづいた。

「予算。予算の問題があるの」

「予算、ですか?」

 意外なことを聞いた、というふうにみどりが言った。

「そう。『北岡』は特別予算なの。普通に部活動に対して出されている予算とは別に学校側から出てる」

それを聞いて沢井がなるほどという顔をした。

「そうか。だから学校に都合の悪いことを書くと・・・」

「予算がおりなくなる可能性もあるってこと」

 景子はあきらめたように言った。

「そんな!」と叫んだもののみどりは後の言葉が続かなかった。そんな卑怯な、とかなんとか言いたかったのだが、よくよく考えてみればもっともな話なのだ。

「そういうことか・・・」

がっかりして体の力が抜け、椅子にくったりと座り込んでしまった。

「だが、実際にそういわれたわけじゃないんだろう?」

となおも松本はくいさがった。景子はちらっと松本をみて、

「本当に言われてからでは手遅れなのよ」

と軽くいなすように言った。

 部室内にあきらめの気配が漂った。その気配をすくいとるようにして谷村が

「じゃあ、まあ、そういうことで。また別の企画を考えよう。もうあんまり時間がないんで、みんなひとつずつ何か案をもってきてください」

と言い、その日は終わりになった。

 みどりが奈緒のそばへ寄ってきて、「すぐ帰る?」と聞いた。帰らないよね、という顔をしている。「帰らないけど・・・」とぐずぐず返事をしていると、みどりはふいっと踵を返して沢井たちのほうへいった。沢井、鈴木、松本、吉田の4人に何か話しかけている。

奈緒は舞のほうを見た。

舞は話し合いの最中、一言も口をきかず、醒めた目でみんなを見ていた。奈緒は中学の時のことを思い出した。あの時も舞はあんな目で周りを見ていたのだ。

 舞は鞄を持って立ち上がったところだった。「なに?」「え?」舞のほうから問いかけられて、奈緒は戸惑った。なんと言おうか考えているとみどりが戻ってきて、「舞も来てよ」といった。

「どこへ?」

「ちょっと集まろうと思ってさ。学校出たとこに小さな公園があるから、そこへ行こう」

 みどりは何をする気なんだろう。奈緒の頭は混乱の度合いが大きすぎて、もう何も考えられないような状態だった。