その後結局話し合いはお流れとなり、議題は次回に持ち越しとなった。谷村たちは何か食べに行くといって3人で帰っていった。正子たちはやはり佐藤と連れ立って部室を出て行ったので、みどりは
「まだ、なんか愚痴る気かなあ」
と文句を言った。
「加藤さんとスポーツバッグというのは、ちょっと意外な取り合わせだよな」
松本はよほど気になったのか、またその話題を口にした。
「そう? そう言われればそうかな」
みどりは正子とはクラスが違うので、見たことがないのかもしれない。奈緒は同じクラスだったので、1回だけ見たことがあった。
「基本的には持ってこないよね。だいたい鞄だけだと思う。それか、なんかかわいい袋みたいなの」
「それなのに、『持ってくるなと言われると困る』なんて、ずいぶん肩入れした意見だよな」
「まあ、そりゃそうだけど。保科先輩みたいに俺は関係ないけど、とか言っちゃうと話がそこで終わっちゃうでしょう」
「だから、仕事がしてみたかったんでしょ」
舞が投げやりに言った。「なんでもいいから発言しないと、いるかいないかわかんなくなっちゃうし。佐藤先生にそう言われたんじゃないの?」
「はあ・・」
松本は舞の口調に驚いたのか、間抜けな反応をした。彼は正子たちの訴えを知らないのだから、舞の発言の意図がわからない。なんで佐藤先生が出てくるんだという顔をしていた。奈緒は空気を変えないとまずいと思い、
「あたしもスポーツバッグだけにしてみたいよ。鞄、重いんだもん」
とおどけていってみた。すかさずみどりが
「そうそう。いったい何が入ってるんだか、奈緒の鞄はいっつもいっぱいだよね」
と受けて、改めて、という感じで奈緒に聞いた。「ほんとに、何入れてんのよ」
「え~、その日に使う教科書とノートでしょ。それとアンチョコ。これがけっこう重いのよ。それぞれの教科の分だからね」
「なに、もしかして、毎日教科書持ち歩いてるの?机の中に入れときゃいいのに」
「だって・・・宿題とかあるし、予習とかもしないといけないし・・・」
「まあ、そうだよな」と松本がうなづいた。「それが普通だ」
「ねー、そうだよねえ」
「いや、普通はいらないものは持ってこないでしょ。あたしだって、学校に置いてあるよ、いくつか」
「あたしもアンチョコは持ってくるけど、そんなに重くないよ」
「え、舞、なんで?」
「使うとこだけ持ってくるもん」
「使うとこだけって?」
「そこだけ切り取ってくるんでしょ」
突然沢井が話に入ってきた。
「そうそう。沢井君もそうなの? あれ便利だよね」
舞は急に機嫌がよくなったのか、沢井とアンチョコについて話し出した。そんな二人を見て奈緒は、またしても心が沈み始めるのを感じていた。アンチョコを1冊まるごと鞄に入れて持ち歩いている自分が、ひどく不様に思える。
(このブタ鞄持って歩いてるとこ見られたんだ) そう思うと無性に情けなくなってきた。