ドラマ「南城宴」
第20集 前編
<第20集 前編>
晏長昀を擁護する者は稀有な人材を極刑に処してはならないと主張し、蕭権以下処刑を提言する者たちは寧国との戦争を盾にする。
趙沅は決断できなかった。
令牌を持たない小強子は、晏長昀との面会のために刑部の牢の看守に銀子を渡して買収した。
晏長昀の収監されている牢を探す。牢は奥まった場所にあった。
「晏長昀!!」
「拂暁!!」
ふたりは格子越しに手を握り合った。
「徹夜で餃子を作ったの。牢ではろくな食事が出ないでしょ、食べてみて」
一夜明けて今日は正月元日だ。家々ではお祝いの餃子を食べているだろう。
晏長昀は、子供の頃の彼女を思い出した。拂暁はまだ七歳だというのに裁縫や洗濯のほか、食事まで自分で作っていた。聞くと、両親が仕事で出かけている時はいつも作っているという。
その時は節句でもないのに餃子を作っていた。彼女曰く、節句でなくても食べたくなるかららしい。
晏長昀を牢から解放すれば寧国が挙兵する。しかし解放しなければ蕭権の思うつぼだ。
頭を抱える趙沅のところへ小強子がやってきた。刑部の牢に出入りできる令牌を求めて来たのだ。
小強子は金の令牌をもらうと飛んで出て行った。
「皇上、晏統領ですが…」
「朕も会いに行ってみよう」
「私は御黛香に問題があると思っているのだが」
晏長昀は、からかい半分で牢へやってきた蕭権に訊いた。当然のように、寧国の貢品の内容など知るわけがないと蕭権は返す。
「では皇后娘娘から御黛香を取り上げたのは何故だ? 御黛香を調査していて分かったことがある。関酉之変の黒幕は貴様だろう?」
「おまえは十五年前に死んでいるべきだったのだよ、秦琰」
やはり蕭権は彼が秦琰であることに気づいていた。
「私を殺し損ねたのは残念だったな」
「生き延びても秦家を再興できないおまえのほうが残念ではないか」
牢内で死亡しても誰も怪しまない。蕭権は晏長昀を牢から出すつもりはなかった。
「なるべく早く手を下すんだな。私がここから出たら、死ぬのは貴様だ」
「待っているよ」
凄んだ晏長昀に、蕭権は笑って答えた。
呉承が血気にはやる千羽衛を連れて刑部大牢の門前にあらわれた。出てきた蕭権に、晏長昀に会わせろと詰め寄る。
駆け付けた小強子が先刻もらったばかりの令牌を見せたが、許可されたのは彼女だけだった。
「晏長昀!!」
牢の中まで入った小強子は、晏長昀に走り寄った。
「令牌をくれた皇上が、すぐにここから出してやるって」
そう上手くいかないことは、晏長昀もよく分かっている。
「あなたは国を憂うけれど、私が心配なのはあなたよ」
晏長昀は小強子を抱き寄せた。
「大丈夫。蕭権はそんな簡単に私を殺せない」
まずは佳陽殺害の犯人を特定し、御黛香の秘密を暴かなければ。
小強子は魏添驕と協力して捜査すると言う。
牢内で抱き合うふたりを、趙沅は目撃してしまった。肩を落とす彼にさらに追い打ちをかけるかのように、重臣が晏長昀の極刑を求める。
彼としては秦琰であろう晏長昀の命を救いたい。小強子が望むからだけではなく、彼は秦家への償いの気持ちが大きかった。
刑部からの帰り道、小強子は声を掛けられた。車いすに乗った男性と、それを押す青年だ。
男性を見た小強子は、心に温かい感情が沸き起こる。一瞬、頭の中に懐かしく感じる映像が浮かんだが、すぐに消えた。
小強子は男性、白弋の宿へついて行った。
「腕を出しなさい」
小強子は意味が分からず、むしろ警戒する。弟弟子が彼女に、白弋が優れた医者だと教えた。
「医術に長けているのに、車いすなんだ…」
ぽろっと口に出してしまい、あわてて小強子は謝った。
「医者は自身を治せんものだよ。まだおまえは師父を疑うのかね?」
今度は、小強子は素直に右腕を出した。
「…内傷が残っているが、回復は時間の問題だろう」
脈を診た白弋は、記憶もじきに戻ると言う。
「拂暁、私と一緒に万事閣へ戻り、養生に努めなさい」
「でも師父、今はまだ戻れないんです」
師父である白弋に背くつもりは無く、ただ晏長昀を助けたいと話す。機嫌を損ねたのか、白弋は彼女を帰らせた。
「師父、怒らないでください。師姐は晏長昀が殺されたら帰ってきますよ」
弟弟子が機嫌を取る。
宿を出た小強子は、魏添驕の待つ千羽衛へ急いだ。魏添驕は佳陽の遺体を前にして、検視結果を小強子に見せる。
佳陽の死因は腹部を刺されたことによる失血死だった。傷跡から凶器の特定は難しいと報告書には書いてあったが、佳陽の腹部を検めた小強子はひと目で推測がついた。同門の大師姐、青離の梅花三稜短刄だ。
千羽衛を飛び出した小強子は宿へとって返した。
「大師姐はどこにいるの!?」
「万事閣だ。まさか青離が佳陽公主を殺害したと思っているのか?」
寝台を整えていた青雲が、青離は嫉妬深いがそんな大それたことはしないと口を挟む。
まさか、白弋が命じたのか。
一瞬、小強子の心に疑念が湧いた。彼女の表情から心を読み取った白弋が、師父を疑っているのかと訊く。小強子はあわてて否定した。
「師姐、師父を疑うなんて論外だ!」
熱くなった青雲が小強子に怒鳴る。白弋は卓を叩いて口げんかを止めた。
「青雲、明日、万事閣へ帰って青離がいるか確かめて来なさい」
小強子には、もしも青離の仕業ならば厳罰に処すと約束する。
「ところで拂暁、万事閣へは戻るのかね?」
すっかり忘れていた。
小強子は急ぎの用事があるからと言い、白弋から逃げた。
夕方になって、小強子は魏添驕とともに太医署へ出かけた。居眠りする曲太医を叩き起こし、御黛香に朱銀粉が含まれていたか訊ねる。
「晏統領のご命令で来られた調香師と連日連夜、それこそ汗水たらして…」
「で、結果は!?」
長くなりそうだったので、小強子は曲太医の言葉を途中で遮った。
「ありました」
巧妙な手口で混入されていたという。
問題は、それをどうやって証明するか。頭を悩ませているところに、劉一刀がしっかりした足取りでやってきた。朱銀粉中毒を治療する薬がよく効いたので、もう少し欲しいと言う。
劉一刀を見た小強子と曲太医は閃いた。彼の体内に残る朱銀粉を取り出せば証明になる。
<第20集後編に続く>