ドラマ「南城宴」 第10集 後編 | 江湖笑 II

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ドラマ「南城宴」

 

第10集 後編

 

 

 

 

 

 

 

<10集 後編>

 

 

 名簿に名のあった人々は朱銀粉の売買とは無関係で、蕭家と確執があった。十五年前の関酉之変と同じだ。朱銀粉の名を借りて、蕭家は敵対する人々を排除せんとしたのだ。

 晏長昀は憤る。

 

 

 御泉殿に蕭万礼の奏上書が届いた。晏長昀の処刑を求めた内容だ。

 そこへ当の晏長昀がやってきた。刑部を使い、蕭万礼が朱銀粉の捜査と称して敵対する人々を粛清したと訴える。

「あの古だぬきめ!

「皇上、ぜひとも蕭万礼に対する捜査をお命じください!

 趙沅は先刻届いた奏上書を見せた。

「朕も同意したいが、勝算はあるか?

「いえ…」

 現在の朝廷は蕭万礼に掌握されている。十分な証拠があっても、彼を倒すのは難しい。

 そこで、とりあえず刑部の虐殺について調べよと趙沅は命じた。

「皇上、きっと晏統領は蕭丞相を打倒できると、私めは信じております」

 馮公公が声に力を込めて言う。彼もまた、蕭万礼の言動所業に憤るひとりだった。

「もちろん、朕も信じている。だが、それまで待てない」

 

 

 久しぶりに千羽衛の食堂を覗いた小強子は、豪華な食事よりもこちらの食事のほうが性に合うと実感する。

 ちょうど粥の桶の前で魏添驕と、食事当番の常勝が話をしていた。今日の粥の出来を試してみろと言われ、小強子が魏添驕から碗をもらって食べてみる。

「美味い!

「どれどれ」

 魏添驕が返してもらった碗で粥をすする。

「千羽衛には人数分の碗すら無いのか!

 突然、碗の回し使いを目撃した晏長昀が怒鳴った。常勝は碗を揃えられなかった罰として三十里のマラソンを言い渡された。そして晏長昀は食事も摂らずに出て行く。小強子は趙沅に叱られたのだろうと思った。

 

 

 珍しく、趙沅が妙音閣以外で京劇の虞美人を舞った。彼のいる御花園の橋は蕭蘅や小強子の見ているあずま屋から距離があったが、隈取りした顔や仕草はよく見えた。

「皇后娘娘、皇上の虞美人はホントに綺麗でいい声ですね。男の人の中にも女性性ってあるのかな。ね、私はどうです?

 小強子はうっとり見ている蕭蘅に訊く。蕭蘅は、それはない、と首を振った。

 まさか、長いあいだの男装があだになって、女性的な雰囲気を無くしてしまったのか。小強子は危機を感じた。

 

 

 この人形を鳳儀宮へ持って行ってやろう。

 子供の頃に蕭蘅が遊んでいた陶器の人形を、蕭権は箱に収めた。

 蕭権がこれほどまでに妹を可愛がるのには理由があった。幼い頃から父の蕭万礼は彼に厳しく接した。ひとり息子に蕭家を継がせるため、時に鞭打ち、時に納屋へ監禁した。

 そんな際に彼を助けたのが蕭蘅だった。蕭蘅は打たれて血のにじむ彼の背中に薬を塗り、納屋に監禁されている彼のために食べ物を差し入れ、扉の向こうで寄り添った。蕭権は一生彼女を守っていくと心に誓った。

 ただ、それだけではなかった。表向き、蕭蘅は蕭権の実妹ということになっているが、実のところ彼女は蕭家とは血縁関係が無かった。

 ある日、酔った蕭万礼が花売り娘を手籠めにした。その後、花売り娘の妊娠が発覚、蕭万礼は丞相府に彼女を監禁して、赤ん坊が生まれると同時に殺害した。ところが、生まれた女児は蕭万礼の子ではなかった。蕭万礼が手を出す前に、すでに花売り娘はほかの男の子供をお腹に宿していたのだ。

 それを知って以来、蕭権の心に恋心が生まれた。

 

 

 蕭権がまたしても鳳儀宮へ、しかも夜更けに行くと知って蕭万礼は激怒した。理性の飛んだ蕭権は妹の出生の秘密を暴露し、自らが皇帝となって彼女に幸せと自由を与えてやるつもりだと叫ぶ。

 蕭万礼が陶器人形を奪って床に投げつけた。人形は派手な音を立てて砕けた。

 

 

 翌朝、晏長昀率いる千羽衛は、刑部による虐殺に関して捜査するため、丞相府を訪れた。蕭権の案内で書斎へ向かう。

「父上、晏統領が来られました。父上」

 返事がない。蕭権は扉を開けた。

 文机の前で蕭万礼が倒れていた。目をむき、死亡している。

「父上!!

「今すぐに現場を封鎖せよ!!

 父の遺体にすがって泣きわめく蕭権を引き離す。

 蕭万礼の手元には血文字が記されていた。”関酉”の二文字だ。

 

 

 いつも趙沅が練習しているのは京劇”覇王別姫”の虞姫である。ところが、彼は今日から覇王を練習すると言う。

 覇王を舞った趙沅は、上の空で見ている小強子に訊いた。

「朕の覇王をどう思う? 演技の幅を広げたいと思っているんだ」

「はぁ…」

 小強子が返事に困っていると、馮公公が息せき切って走ってきた。蕭万礼の死を知らせるためだ。

 

 

 大勢の重臣の前で、趙沅は大げさに嘆いてみせた。

「ああ、南国の天が半分落ちてしまった! このような凶行を許さでおくべきか! 晏統領、必ずや犯人を捕まえておくれ!

「承知いたしました」

「お待ちください、皇上!

 蕭権が前に進み出た。彼は、丞相府で起った事件なので自ら捜査すると言う。

「皇上、父は最期に”関酉”のふた文字を残しました。きっと秦家の残党による報復です!

「蕭大人、たったふた文字で断定はできませんよ。もしかして、秦家に対してやましいことでもおありかな?

「秦家を庇う晏統領こそ、心に亡霊を住まわせておられるようだ」

 ふたりの口論が治まらない。趙沅はあいだに入った。

「一国の丞相が殺害されたのだ、徹底的に捜査せねばならぬ! 文武百官、州府衙門に関わらず、全員が捜査に協力すべし! 犯人を捕らえた者には褒美を遣わす!

 趙沅は芝居じみた口調で命令を下した。

 

 

 蕭万礼が朱銀粉の黒幕ではなかったのか。晏長昀や呉承が知る限り、雷豹たちは動いていない。

「少主、我々は捜査の対象を間違えていたのでしょうか」

「いや、真相に近づいているはずだ」

 犯人はわざと我々を混乱させているのだと晏長昀は言う。

「我らよりも蕭万礼をよく知る人物が犯人だろう」

「では、関酉之変の黒幕は蕭万礼ではなかったと!?

 

 

 

 

 

 

<11集前編に続く>