ドラマ「南城宴」 第8集 前編 | 江湖笑 II

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ドラマ「南城宴」

 

第8集 前編

 

 

 

 

 

 

 

<8集 前編>

 

 

 勢いで皇城を出たものの、早くも小強子は後悔し始めた。記憶の無い彼女に行く当てなど無いのだ。

 そんな彼女の肩を敲いた者がいた。彼女の師弟の青雲と名乗る青年だ。

 青雲は小強子を郊外の原っぱに連れ出した。ここなら誰にも聞かれないと言う。彼は記憶の無い小強子に万事閣について話した。

「師父は万事閣を創立して身寄りのない子供を集め、育てながら武術を教えたんだ。正義を行う一派で、師姐は弟子の中でも最高の武功を持つ女侠客、拂暁なんだよ」

 青雲は右袖をめくって腕を見せた。小強子と同じく、赤い線が浮き出ている。万事閣の全員がある者によって毒を飲まされたと話した。

「そいつは私たちを操るために毒を盛ったんだ」

 青雲は師父の白弋から預かった毒の緩和薬を小強子に渡した。

 なんてヤツ!

「今から一緒に帰って、悪人から解毒薬を奪おう!

「師姐は帰っちゃダメだ!

 先日、小強子を襲った大師姐の青離がいるからだ。青離は、小強子が記憶を失くしたふりをして標的の晏長昀と親しくしていると白弋に報告、反逆者は抹殺すべきだと主張しているらしい。

 誤解を解き、万事閣が解毒薬を得る方法はただひとつ、小強子が晏長昀を暗殺することだった。

「でも、晏長昀はそんなに悪い人に見えないんだけど…」

「何なら、私が手伝おうか?

「そんなことしたら、すぐバレちゃうじゃない」

 とにかく任せてくれと小強子は言う。あっさり引き下がった青雲は、万事閣特製の暗器を彼女に渡して去った。

 

 

 可哀想な小強子をそろそろ千羽衛に戻してもいいのではないか。そんな話をしながら千羽衛に帰ってきた晏長昀、呉承、魏添驕は、書物の下敷きになった小強子の置手紙を見つけた。

 さんざん晏長昀への悪口が並び、最後は帰ってくるようなヤツは犬だとまで書いている。

 小強子は皇城を出るつもりだ。魏添驕は城外で悪いヤツに騙されないかと心配し、悪口に怒る呉承と言い争う。晏長昀は無言で飛び出して行った。

 

 

 その頃、通りを歩く小強子は青雲の言葉を頭の中で反芻していた。

 記憶喪失のうえに毒を盛られていた? 私は拂暁という女侠客で、万事閣の腕利き? そういえば太皇太后の命令で絞め殺されそうになった時、無意識に体が動いたけれど、あれがそうだったのか。

 試しに、小強子は道行く男性に向かって手のひらを突き出してみた。見事に男性が転ぶ。小強子はあわてて角を曲がって逃げた。

 その小強子の前に怪しい男が立ちはだかった。

「きみにはこれが必要なんじゃないかな?

 ニヤニヤ笑いながら、がばっと上着を広げた。男の上着の内側には様々な恋の指南書が貼り付いていた。

 ところで蛇足だが、転んだ男性は小強子の武功に当てられたのではなかった。偶然落ちていたバナナの皮を踏んだだけだった。

 

 

 トボトボと小強子は承乾門へ戻ってきた。晏長昀が承乾門から飛び出してくる。

「手紙を見たが、七言絶句が見事だったぞ。確か帰ってくるヤツは犬だと書いていなかったかな?

 小強子は愛想笑いを浮かべてワンと鳴いた。

「勘弁してくださいよ、皇后のお使いだったんですから」

「ほう、用事は何だ?

「それは、その…」

「小強子!!

 上手い具合に雪茹が小強子を捜してやってくる。小強子は彼女にくっついて宮中へ戻った。

 

 

 勝手に皇城を出た罪は頬打ち三十回。門を出るために皇后の令牌を盗んだ罪は杖責五十回。それが小強子の罰だった。

 罰を逃れるため、小強子は買い求めた姻縁宝鍳のお札と恋愛指南書を差し出した。

 

 

 その夜、小強子は情に訴えて趙沅を鳳儀宮へ連れて行った。蕭蘅とふたりきりになった趙沅は寝台に押し倒される。小強子の助けは無かった。

 そうでもしなければ、小強子は罰を食らう。これも南国の未来のため、と小強子は心の中で趙沅に謝った。

 

 

 蕭蘅は出自も容貌も教養も揃った完璧な皇后である。性格も思ったより意地悪ではない。

 そんな蕭蘅を趙沅が避ける理由は、彼女の父、蕭万礼にあった。今でさえ朝廷の権限は蕭万礼に握られている。もしも蕭蘅とのあいだに男の子でも生まれようものなら、未来永劫皇室は蕭家の影響を受けるのだ。

「皇上、気を悪くしないで聞いてくれますか?

 小強子は厠にこもる趙沅に話しかけた。

「私は皇后が可哀想でなりません」

 蕭蘅は蕭家に生まれたがゆえに父に利用され、皇后となった。宮中では夫であるはずの趙沅から冷たくあしらわれ、孤立無援だ。これを可哀想と言わずしてどうする、と小強子は力説した。

 不意に小強子は肩を叩かれた。いつの間にか趙沅が厠から出ている。いつもの笑顔を浮かべた彼だった。

「小強子、やっぱりきみは他人を思いやれるいい友人だ」

 

 

 これで蕭蘅の件は丸く収まった。あとは晏長昀暗殺をどうするか、だ。

 部屋に持ち込んだ果物や点心、ひまわりの種を食べ散らかしながら考え込む。

 いや、待てよ。あの青雲は信用できるのか?

 毒かもしれないと勘ぐり、小強子は緩和薬の入った小瓶をゴミ箱に捨てた。その途端、胸が苦しくなって息が詰まった。毒の発作だ。

 小強子は藁をもすがる気持ちでゴミ箱から小瓶を拾い、中の丹薬を口に入れる。息も絶え絶えに、小強子は寝台に倒れ込んだ。

 

 

 小強子の部屋の扉には下げ札が掛かっていた。”邪魔しないでください”と書かれている。

 晏長昀は通りかかった宮女ふたりに話を聞いた。すると、小強子は夕食も摂らずに部屋にこもっているという。

 晏長昀は、扉を敲いてみた。返事がない。中へ入ってみる。脱いだ靴や衣服が床に落ちている。当の小強子は向こうを向いて眠っていた。

「小強子、小強子!

 声を掛けたが起きる気配が無い。晏長昀は肩を掴んでこちらを向かせた。

 下着がはだけて、素肌が見える。あっと息をのんだ晏長昀は背を向けた。

 まさか、小強子が女性だったとは。

 これがバレたら小強子は殺される。晏長昀は急いで彼女の体に布団を被せてやった。

 その時になって、彼は小強子の顔色が悪いことに気付いた。毒の発作かと思い、右腕を見る。赤い線が薄れていた。

 

 

 晏長昀は急ぎ曲太医を呼んで小強子の脈を取らせた。

「毒の発作が起こったようですが、おかしいですね」

 体内の毒は消えてはいないが四散している状態だという。いわば毒の効果が抑制されているのだ。

「毒は消せないのか?

「毒の成分が判明すれば、あるいは強公公は助かりましょう」

「それは聞き飽きた! 解毒できなければ、おまえの命は無いものと思え!

 晏長昀はどすの効いた声で脅した。

 

 

 

 

 

 

<8集後編に続く>