ドラマ「与鳳飛」
第5集
<第5集>
南娰に覆いかぶさった男が徐々に身を起こす。彼の喉元には鋏の先端が突きつけられていた。
南娰は眠っていなかったのである。
南娰が間男を連れ込んだと白依依から聞き、怒り心頭の蒼老夫人は廊下を急いだ。
白依依が乱暴に扉を開くと、仁王立ちする南娰の背中が見えた。間男とされた男はさるぐつわを噛まされ、両手を卓の脚に繋がれている。
怯える男は白依依をちらちら見た。
「南娰、この男は?」
「百鳳国で有名な強姦魔ですよ。どれほどの女性が被害に遭って泣いたことか」
蒼寒聿もやってきた。
「警備の厳しい蒼府に強姦魔だと!?」
誰かが府内に引き入れる以外、考えられない事態だ。空気を察した翠児がひざまずき、震えながら何も知らないと訴えた。
蒼寒聿は、何か言いたげな男の口から布を取った。
「勘弁してください!」
「誰が引き入れた?」
蒼寒聿から問われて、男がちらっと白依依に視線をやる。
「その…少夫人です!」
少夫人とは南娰のことである。南娰はいつ、どこで接触したことがあるのか、その証拠や証人はいるのかと詰問した。
男がまた白依依の顔色を窺う。
次の瞬間、短刀を握った白依依が男の喉を斬った。
「白依依!!」
居合わせた全員がこおりつく。
「不利な証言をされると思ったのか?」
南娰の言葉にはっと我に返った白依依が、血に濡れた短刀を取り落とした。
「姑姑、この男が醜聞を外部に漏らしたら蒼家の家名にかかわると思って…!」
白依依は蒼老夫人の足もとにひざまずいた。
「蒼家のためだったのです! 姑姑、分かって下さい!」
よくも白々しいことを言えたものだ、と蒼寒聿と南娰は呆れる。
蒼老夫人は無言で白依依を見る。白依依は潔白を証明するため、短刀に手を伸ばした。
とっさに短刀を取り上げた蒼老夫人は、彼女の言い分にも一理あると言い出した。
南娰を不貞妻扱いされた蒼寒聿は黙っていない。抗議したが、南娰は蒼家の汚点だとまで言われてしまった。
言い争いが高じていく。南娰は蒼寒聿の手を握って彼の暴走を止めた。
「…では、どうしても南娰を諦めないと言ったら?」
「勝手をするならば、家法で裁くまでです!」
蒼寒聿は杖刑を受けた。まさか彼が身を挺してまで庇うと思っていなかった南娰は、少々心が痛む。だが平静を装い、毒のある蒼老夫人や白依依の言葉に対して冷静に反撃した。
蒼寒聿の背中に血が滲み、蒼老夫人は杖刑を停める。南娰は蒼寒聿に近づいた。
「蒼寒聿、どうせ私たちはここまでの縁なのだから、庇わなくていいのよ」
「いいや、これまでのきみへの贖罪だから、甘んじて受けるよ」
ふたりの会話を聞いた蒼老夫人が、まだたわごとを言うのかと憤り、続きを打たせた。
<第6集に続く>