ドラマ「我才不要当王妃」
第16集
<第16集>
王瑞秋がいなくなった。孟義が捜索に出ているあいだ、崇六は王府で待機する。
「解毒薬など渡すのではなかった。挨拶もせずに出て行って、無礼なヤツだ!」
崇六はイライラと歩き回りながら王瑞秋を罵る。
だがその直後、崇六の脳裏に彼女と過ごした日々が蘇った。初めて口づけられた時の、湖畔で怪我の手当てをしてくれた時の彼女を思い出す。
「い、いや、むしろいないほうが安心だ。…安心? 安心って何が?」
つい思い出に浸ってしまう自分に気づいて、あわてて否定する。
自問自答を繰り返すうち、崇六は王瑞秋のとある仕草を大きく誤解していることに気付いた。彼女がクイクイと親指を曲げて見せたあの仕草だ。
「そうか、あの時…」
あの時、王瑞秋が言いたかったのは、そばにいるだけで互いに良い影響があるのではないか、黄文吉の恋心に影響された文靚靚は刺客業から足を洗えるかもしれないということだ。
孟義が捜索から戻ってきた。発見できなかったと報告する。居ても立ってもいられない崇六は、自ら捜しに行こうとして立ち上がった。
そんなところへ、べそをかく黄文吉がやってきた。手形がくっきりとついた両頬は腫れあがっている。
「六六、聞いてくれよ。靚靚が婚約を止めるって言うんだ。心変わりしたって」
運命の人を見つけた代償は大きすぎる、と嘆く。早く王瑞秋を捜しに行きたい崇六は、しかし彼を放っておけなかった。
「だからこそ運命の人なのだよ」
「…六六はいつも私を嫌っているようで、実は優しいんだよな」
ますます出て行きづらい。
「運命の人なんて、普通に出会えるものじゃないよな。だからさ、簡単に諦めちゃいけないんじゃないか?」
話しているうちに、黄文吉は元気が湧いてきた。
「ようし、絶対に彼女を妻にするぞ!!」
立ち直りが早くて良かった。ほっと安堵した崇六は大事なことに気付いた。
黄文吉の近くに文靚靚がいないということは。
「おまえの表妹は?」
「まだ”私の”ではないよ」
崇六は思いきり卓を叩いた。
「文靚靚はどこにいる!?」
「ええと、ひとりで出て行ったけど」
まずい、王瑞秋が狙われる。
崇六は血相を変えて王府を飛び出した。
その頃、王瑞秋は湖畔でぽつねんと座っていた。
服の裾をいじっていたら、足音が聞こえた。期待を込めて顔を上げる。
しかし、そこにいたのは短剣を握る文靚靚だった。
「表妹、あなたの相公と一緒じゃないの」
「私の相公? 誰のこと? それに、私はあなたの表妹ですらないわ」
「でも、世子の気持ちは本物だわ」
「だから何? 私は刺客よ!」
急に黄文吉との仲を縮めたのは、文靚靚の芝居だった。油断を誘うためだったのだ。
文靚靚が五から逆に数をかぞえる。
「一!」
文靚靚の短剣が飛ぶ。王瑞秋は暗器の飛鏢で応戦する。
「あなたの目から渇望と低い肯定感が読み取れるわ」
根っからの悪人ではないはずだから、きちんと心の声に耳を傾けたほうがいいと王瑞秋は説得する。
「心の声ですって? 聞いたって同じよ。組織の一員になって以来、私には刺客の道しか無かったのよ」
文靚靚は、王瑞秋も同様だと言う。王瑞秋をまだ暗殺組織の一員だと勘違いしている文靚靚は、崇六のために裏切った先は死しかないのだと話す。
「崇六が愛してくれた? 違うでしょ」
一方通行の愛に溺れた女は馬鹿だと罵倒する。
しかし、間違っていたのは文靚靚のほうだった。ふたりを見つけた崇六が突進してくる。そして王瑞秋を刃から守るため、崇六は彼女に飛びついて一緒に地面に転がった。
「ひとりで出て行くなんて、気でも狂ったか!?」
嬉しくて、涙を浮かべながら王瑞秋は笑みを浮かべる。
ところがその直後、うっと呻いて崇六が気を失った。
「六六、六六!?」
馬鹿なヤツらだ、と文靚靚が鼻で笑った。その彼女の手を、あとから追いかけてきた黄文吉がそっと握る。
「表姐、心配しなくていいよ。体力の使い過ぎだから、休んだら目を覚ますよ」
生まれながらにして崇六は体が弱かった。気絶するまで走る彼の姿は、長年そばで育った黄文吉ですら見たことが無かった。
崇六にすがって泣く王瑞秋を見て、黄文吉がしょうもないことを思いついた。
「靚靚~、私も走り通しで…」
甘えて文靚靚に寄りかかる。彼女は顔をしかめ、避けるように離れる。
「あ、靚靚!!」
黄文吉は文靚靚を追いかけて行った。
「六六、六六!!」
必死の呼びかけに、崇六が目を覚ました。じっと王瑞秋を見つめる。
王瑞秋を抱き寄せた崇六は、心のこもった口づけをした。
<第17集に続く>