ドラマ「虚顔」
第14集
<第14集>
相国府から送られてきた絵には、寧王と沈沁の”私房図”が描かれていた。
雲諾に確かめても、描かれている女性は沈沁に見えた。
だが、ここに描かれている沈沁や噂に聞く沈沁は、現在の蕭夫人と表情も気性も、そして食の好みも違う。
蕭夫人である沈沁は、いったい何者なのだろうか。
昼食時もそのことで頭がいっぱいだった蕭寒声は、習字の練習をする圓宝にうわの空だったことを指摘された。
「まだ来ていない雲叔叔の代わりに、私が軍師になってあげる!」
「子供には分からないよ」
「じゃあ訊くけど、母さまが父さまのことをどう思っているか、知りたくない?」
立ち上がった圓宝が、離れから一幅の絵を持ってくる。絵を見た蕭寒声は、驚きのあまり一瞬言葉を失った。
「母さまが父さまを描いたんだよ」
「いつ!?」
「初めて出会った時だって」
絵には弓を引く蕭寒声が描かれていた。この姿を知る者は、あの女性しかいない。
「圓宝、父と娘のあいだで重要なのは何だった?」
「厚い義侠心!」
「その通りだ! それじゃあ、母さまが何と言っていたか教えてくれるな?」
圓宝が蕭寒声の耳元でささやく。蕭寒声はにやにやしながら、何度も聞き返した。
寧王と沈沁を描いた”私房図”と、蕭寒声を描いた絵の両方に同じ句が添えられてあり、その下に同じ落款が押されていた。句は”朝花夕拾 心有戚柒”の8文字だ。
「描いたのは…十七?」
”柒”は漆の意味だが、”七”の誤写や改ざんを防ぐために用いられる大字でもある。
蕭夫人は、あの時に山寨で出会った十七という名の絵師だったのか。
確認のため、蕭寒声は捜査途中で名前が挙がった鎏金坊の娼妓、盈袖を訪ねた。
「娼妓の絵を描く十七という絵師がいると聞いた。彼女は技術に優れ、文才にも秀でている。きみの友人らしいが…」
盈袖は明らかに動揺していた。それを隠すため、酒を勧める。蕭寒声は一杯目を飲み干した。
「…そうです、親しい友人です」
「十七姑娘は、もう嫁いでいると?」
また盈袖が酒を勧める。蕭寒声は一気に飲み干した。
「十七姑娘は結婚しています。将軍、三つ目の質問をどうぞ」
蕭寒声は持参した絵を卓に広げた。弓を引く蕭寒声の絵だ。
「この落款は十七姑娘のものかな?」
「これは…!」
盈袖は言葉を詰まらせた。
「是非を答えてくれたらいい。判断は私がする」
盈袖は短くはい、と答えた。
それを聞いた蕭寒声は三杯目を飲み干し、礼を言うや否や立ち去った。
盈袖は十七の秘密がばれたと直感した。
顔がゆるんで仕方のない蕭寒声は、絵を描くのに夢中になっている十七に呼びかけた。
「十七」
十七が反射的に返事をして、立ち上がる。
確定だ。
彼女は相国府の沈沁ではなく、蕭寒声が山寨で恋に落ちた絵師の十七だ。
夜、蕭寒声は離れの部屋に鍵を掛けた。困り果てた十七が蕭寒声の居室へ来る。
蕭寒声は長椅子のあった場所に文机を置いて、にやにやしながら”朝花夕拾”と紙に書いている。
「部屋にいないから鍵を掛けたのだ。ちょうどいいところに来た。墨を磨ってくれ」
十七は仕方なく墨を磨る。だが、意地悪をする蕭寒声は、硯をあちらへこちらへと移動させた。翻弄された十七は怒る。
「将軍、私をもてあそんでいるのね! 鍵を下さい!」
「鍵はたしか池に投げ入れたよ。私たちは夫婦なんだから、一緒に眠ってもいいだろう?」
呆れた十七が居室を出て行こうとする。その背中に、蕭寒声は声を掛けた。
「実は、この絵を見せようと思ったんだ」
十七の前に絵を広げて見せる。
「この絵を見たことがあるかい?」
<第15集へ続く>