ドラマ「千金丫鬟」
第21集
<第21集 不許娶別人>
このところ、董聴瑶は元気が無い。
「聴瑶、少し痩せたのかしら?」
老夫人に訊かれた董聴瑶は、熱い日が続いているので食欲があまりないと話す。
「それは、いけませんね」
痩せていると婚礼衣装に映えないし、もうすぐ若奥様になるのだから、体調を整えて方家の跡継ぎを産まなければ、と老夫人は言う。
「あら、私もそれくらい出来ますわ」
方天逸と腕を組んだ紀明月が応接間に入ってきた。
「天逸、顔色がよくありませんね」
「忙しかったものですから」
ここ数日、方天逸は仕事と称して部屋に籠り、ナイフで受けた傷を癒していた。そのあいだ、彼は紀明月とも会っていなかった。
「董小姐、もうじき家族になるのだから、過去は水に流してくださいね」
「紀小姐、恐れ入ります。あなたは目上にあたるのですから、お気になさらないで」
同年代とはいえ、紀明月は方天逸の妻となる。董聴瑶から見れば、方予澤の叔父の妻である。
テーブルの上に金の腕輪を見つけた紀明月は、腕に嵌めてみたいからと方天逸のほうに腕を出した。ほほ笑みながら彼女の手を取った方天逸は、左腕に嵌めてやる。
方天逸と紀明月の仲睦まじい様子を見せつけられた董聴瑶は、心中穏やかではなかった。董雁児に会いに行き、いつものように悩みを打ち明ける。
「雁児、彼がとても遠くに感じられてつらいわ。引き留めるには、もう遅いけれど…」
突然、董雁児が暴れ出した。”少爺”には嫁がせないとわめく。
なだめていた董聴瑶は、布団の中に折りたたんだ紙があることに気付いた。広げてみると、5桁の数字がいくつも並んでいる。
雁児が、なぜこれを?
庭で酒を飲む方天逸のところへ、紀明月がやってきた。董聴瑶の前ではまるで恋人のように接していたが、今の彼はにこりともしない。
ところが董聴瑶の姿を見るや否や、紀明月を引き寄せた。董聴瑶が視線を向けていることを知っていて、わざと紀明月に顔を近づける。董聴瑶からは、口づけを交わしているように見えた。
思わず董聴瑶は逃げる。
そんな彼女の後ろ姿を目で追った方天逸は、すっと紀明月から離れた。
「今日の聴瑶はとりわけ美しいよ」
純白のウェディングドレスを試着した董聴瑶は、大きな姿見の前に立った。方予澤が豪華なネックレスをつけてくれる。だが、着飾った彼女に笑顔は無かった。
応接間にはほかに幾着ものウェディングドレスが用意されていた。
ウェディングドレスを試着するもうひとり、紀明月が、方天逸にエスコートされてきた。
董聴瑶を見た方天逸が目を奪われる。何度も紀明月に名を呼ばれて、やっと我に返った。
「…もう試着はいいわ」
いくつも試着していない董聴瑶が、着替えに行こうとして方天逸の横を通り過ぎる。
その時、董聴瑶がつまずいた。とっさに方天逸が支える。董聴瑶の手が傷がある方天逸の左胸に当たり、彼は一瞬痛みで顔をゆがめた。
「…ありがとうございます、二爺」
体を離した董聴瑶は、方予澤に付き添われて応接間から大階段のほうへ歩いていく。
方天逸は鏡越しに、遠ざかる董聴瑶の後ろ姿を見つめた。
着替えた董聴瑶は廊下に出た。
廊下の壁にもたれた方天逸がタバコを指に挟んでいる。
いったん彼の前を通り過ぎた董聴瑶は、足を止めて振り返った。
「二爺、ご機嫌いかが?」
「いいよ」
「…本当に紀明月と結婚するの?」
「だから?」
「できたら、止めてほしいの」
「何故?」
「それは…嫌だから」
嫌だ、とはずいぶんと都合のいい言い訳だ。
「董聴瑶、私があいつに嫁ぐなと言った時、おまえは何と答えた? 私はおまえの玩具じゃないぞ!」
<第22集に続く>