ドラマ「欽天異聞録」
第20集 大結局
<第20集 大結局>
突然、そばにいる衛兵の剣を抜いた童肦秋が余瓊に斬りかかった。余瓊は左手に持っていた剣で受け止める。
「余大人、いつ剣を左でも使えるようになったのですか?」
「私も武人のはしくれ、利き手でないほうの手で剣を扱えなくてどうする」
「陛下、これは陛下の安全のためです。ご理解ください」
童肦秋が弁明すると、白洛書たちが命を懸けて彼女を擁護する。李思霖にまで許しを請われた皇帝は、納得のいく説明をするように促した。
童肦秋は、四年前の天外奇石で造られた宝剣を見せて話し始める。
宙玄の成虫が李思霖に寄生したところまで話が至った時、当の本人が口を挟んだ。
「余瓊、おまえが侯府へ来て私に近づいたのは、乗り移るためだったのか!」
当初、山魈が李思霖の荷だと知った宙玄は、香を利用して蘇建翊から山魈へ乗り移った。しかし間の悪いことに、童肦秋に捕らえられた山魈は天牢に収監される。
山魈を取り戻しに李思霖が動くと思っていたら、その前に余瓊がやってきた。岐天意に面会したあとの事だ。
皇帝に近づくために余瓊に乗り移った宙玄は、幾度となく童肦秋が要請する再調査を妨害したのである。
「初めは失踪事件の捜査を強要し、事件解決後は異客からの防衛だと称して再調査を拒否して、私を天鍳司の通識鏡の係へと左遷した。露見を恐れたからだ!」
「何を言う! 夜市の情報を与えたのは私だぞ!」
証拠はある。
宙玄が初めて寄生した人族は蘇建翊である。宙玄はかれの影響を強く受けていた。例えば剣術、それに筆跡だ。李思霖経由で手に入れた剣歌吟の紙に蘇建翊の居場所を書いた時、無意識だったに違いない。蘇建翊の筆跡を使っていたのである。そして、蘇建翊は左手でも剣を使う。
加えて、仮の名に”陸瑾”を使用したのも、蘇建翊の影響だ。
蘇建翊が生きていると知った宙玄は陸瑾を刺客に送り、暗に夜市に蘇建翊を連れていくよう捜査中の童肦秋に言い、かれの口を封じようとしたのだ。
「陛下、私は無実です!!」
ひざまずいた余瓊に、禁衛兵の県が突きつけられる。
「確かめてみよ」
天外奇石の欠片を手にした童肦秋が近づく。
余瓊が皇帝に飛びかかった。童肦秋は八門金鎖を余瓊の足に絡めて引き倒す。
「余大人、ご辛抱を」
童肦秋に代わって、白洛書が欠片を余瓊の額に押し当てた。
じゅ、と音がして、欠片の当たっている箇所が赤く光る。余瓊の声で、寄生している宙玄が悲鳴を上げた。
「私が皇帝に命乞いしたから、童爺は宙玄を退治できたんだ」
一件落着して百草廬へやってきた李思霖は、得意満面である。
「でも、山魈なんかを城内に入れちゃったし」
「おかげで東奔西走させられた」
だんだん李思霖に腹が立ってくる。童肦秋、白洛書、孫淼淼は李思霖を追いかけ始めた。
その横を、荷物を持った蘇建翊が通りかかった。事件の解決に一役買ったかれは、天策府から窮奇営の再建を要請されたのである。そのため、三人に別れを告げ、窮奇関に戻るつもりだった。
「送ろう」
小川にかかる橋まで送った童肦秋は、蘇建翊に一通の書状を渡す。
「欽天監の待遇は悪くないぞ。また一緒に仕事できる日を楽しみにしている」
くるりと踵を返し、童肦秋は百草廬へ帰っていく。童肦秋はふり返りもせずに蘇建翊に手を振った。
<完>