ドラマ「欽天異聞録」
第17集
<第17集>
看守が差し出した収監名簿に、山魈の名があった。その名は黒い丸で囲われている。ほかの奇獣の名には、赤でバツ印がつけられてあった。赤いバツ印は処刑済みを意味し、黒い丸印は刑期を終えての釈放を意味する。
「奇獣に刑期があるのか?」
天牢に収監された奇獣の処遇は、一介の看守たちに決められない。かれらは分からないと答えるだけで精一杯だった。
刑期の問題はともかく、釈放された山魈はどこへ消えたのだろうか。諦聴閣へ戻った三人は再び会議を始めた。
「私は安楽侯が連れ去ったのだと思います」
李思霖をよく知っているとは言えないが、と前置きして、蘇建翊は自分の考えを述べた。
言動を見ても、李思霖が悪人とは思えない。ただ、かれの遊び心は度が過ぎている部分があった。
もしも李思霖が山魈を連れ去ったとなると、事は一大事だ。 山魈に寄生している宙玄の成虫が、いつ李思霖に乗り移るか分からない。
大黎国は未曽有の危機に瀕している。
安楽侯府は、すべての護衛が皇宮の禁軍兵と天誅司の宿星衛に入れ替わっていた。祝宴で訪れる皇帝のためだ。
童肦秋、白洛書、孫淼淼、蘇建翊の四人は強引に侯府の門を突破しようとしたが、かれらの顔を知らない禁軍兵によって阻まれた。
押し問答していると、例の侍女が門から出てきた。
「侯爺はご気分がすぐれず、休んでおられます」
この大事な時に病気で臥せっていると?
仮病であることは明らかだ。
「ちょうどいい。こちらには薬神の孫の孫淼淼がいる」
「いえ、お体の不調ではなく、お心の疲れですから」
「それならば、余計に早く治さねば」
押しまくるが、侍女は引かない。いくら親しくても安楽侯は皇族である。たとえ特権を持つ巡天按察使であろうとも、李思霖の意志には逆らえない。
「では、余司主は?」
「余司主は侯府におられません」
皇帝の移動に備えて、余瓊は皇宮入りしているという。
安楽侯府の門前で童肦秋は諦聴を使ってみたが、内部の様子を知ることはできなかった。四人は諦聴閣に戻る。
「いっそのこと、皇帝の行幸を途中で止めましょう!」
蘇建翊がとんでもないことを言い出した。
確かに、李思霖を皇帝に近づけなければ寄生は防げる。しかし簡単なことでは無い。皇帝の行列は無数の禁軍兵が護衛していて、道中の各所には庶民にまぎれた宮中の手練れが周囲を窺っている。突入以前に排除されるのが落ちだろう。
それに、肝心の宙玄が李思霖に寄生しているという証拠がない。
どうやって安楽侯府へ入り、皇帝と李思霖の接触を阻めばいいのか。
「”かれら”に話を聞くか」
「”かれら”?」
童肦秋の言う”かれら”とはいったい誰のことだろうか。
<第18集に続く>