こんにちはアメブロ。
その日、特別な予定はありませんでした。
ただ、朝の空気の中で、
「温泉に行きたい」
という思いが、静かに浮かびました。
理由はありませんでした。
疲れていたわけでもなく、
何かから逃げたいわけでもありません。
それでも、その感覚は確かでした。
私は、その小さな感覚に逆らわず、
車に乗り、安曇野へ向かいました。
道中の景色は、どこまでも穏やかで、
空は高く、光は柔らかく、
山の輪郭が、はっきりと見えていました。
その景色を見ているだけで、
すでに何かが満たされているのを感じていました。
到着したのは、一ノ瀬牧場でした。
ここは、幼い頃から何度も訪れた場所です。
両親と一緒に歩いた道、
風の匂い、
広がる草原。
すべてが、記憶の奥にある感覚と、
静かに重なりました。
変わっているところもありました。
新しくなった建物。
少し整備された道。
それでも、ここに流れているものは、
変わっていませんでした。
私は、しばらく何もせず、
ただそこに立っていました。
何かを考えるわけでもなく、
何かを探すわけでもなく、
ただ、その場所にいる。
それだけで、十分でした。
しばらくして、
「このまま帰るのは、少し違う」
という感覚が生まれました。
そして、
「ここに泊まってみたい」
と、自然に思いました。
事前に調べていたわけではありません。
予約もしていませんでした。
それでも、
行ってみようと思いました。
目に入った一軒の宿に向かい、
扉を開けました。
突然の訪問でしたが、
ご夫婦はとても自然に迎えてくださいました。
無理に整えられた対応ではなく、
そこにある日常の延長として、
私を受け入れてくださったように感じました。
そのことが、
とてもありがたく、
そして、深く安心しました。
夕食の時間、
差し出された料理には、
特別な装飾はありませんでした。
けれど、
ひとつひとつに、
静かで確実な温かさがありました。
その場に流れている時間もまた、
穏やかで、
どこか懐かしいものでした。
言葉は多くありませんでしたが、
それで十分でした。
むしろ、
言葉が少ないことが、
この時間の本質を守っているように感じました。
夜、部屋に戻り、
静かに座りました。
窓の外には、暗い山の輪郭があり、
空気は澄み、
世界は、深く静まっていました。
その中にいると、
自分が何かになろうとしなくてもいいことを、
自然に思い出しました。
ただ、ここにいる。
それだけで、
満ちていました。
翌朝、目が覚めたとき、
体の内側が、静かに整っているのを感じました。
何かが増えたわけではありません。
何かが劇的に変わったわけでもありません。
ただ、余分なものが、
静かにほどけていました。
宿を出るとき、
私は、この場所を後にすることが、
少しだけ名残惜しく感じられました。
けれど同時に、
この感覚は、
ここだけのものではないことも、分かっていました。
特別な日だったから、尊かったのではなく、
日々の延長として訪れたからこそ、
この一日が、自然に現れたのだと思います。
尊い日は、
どこか遠くにあるのではなく、
すでに流れている日々の中に、
静かに含まれています。
それは、何かを強く求めたときではなく、
小さな感覚に気づき、
それに従ったときに、
自然に姿を現します。
あの日のことを思い出すとき、
特別な出来事よりも、
そこに流れていた静けさを、先に思い出します。
そして、その静けさは、
今も、確かに続いています。