山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
夏目漱石、「草枕」の冒頭である。
まあわかるのだが、よく考えるとわからない気もする。
「智に働く」という言い方があるのか? 「情に掉さす」と普通に言うのか?
智に働くと、なぜ「角が立つ」のだ?
勝手に裏を読んでみた。
これは掛け言葉ではないのか?
「智」は「地」だろう。
「地に働く」とは、大地を耕すこと。耕せば土が起きて、角が立つ。
「かど」には「才」とあてる文字もある。才気、才能を表す。
よって、こう読める。
■理にしたがって行動すれば、自ずと才気が現れる。しかし、争いのもととなることが多い。
「情」は「瀞」だろう。「瀞」と書いて、「とろ」と読む。
流れがおだやかな、深いよどみという意味だ。
そんな所には土砂が堆積している。棹などさせば、抜けなくなる。
舟が流される道理である。
「地」に対して「水」の対句になっている。
■感情の世界に深入りすれば、抜き差しならなくなって流される。
そういうことじゃあないのかな。
そんな風に、はすっかいから名文を眺めて、わかった風な気持ちになった。
これはすべて想像の産物である。